八百長に賄賂、バブル崩壊で「習近平」W杯優勝の野望も無惨…中国サッカーはなぜこんなに弱いのか
ピッチで勝負が決まらない、腐った世界
一方、お金以上に深刻なのが腐敗の問題だ。2022年、中国サッカー界は八百長、贈収賄、賭博といった一連の不正が発覚し、多数の選手、クラブ関係者、スポーツ当局官僚らが逮捕される事態となった。なお、中国サッカー界の大型不正事件は2001年、2009年にも摘発されている。ほぼ10年に1回というペースで不正が見つかっており、体質が変わっていないことを窺わせる。 2022年の疑獄については、まだすべての判決が下ったわけではないが、今年3月には元サッカー協会会長に無期懲役、8月には元副会長に懲役11年の判決が言い渡されている。9月にも選手38人とクラブ関係者5人の永久追放処分が発表されたばかり。なお、代表の元主力選手にして代表監督までつとめた李鐵(り てつ)も収賄容疑で提訴され、今は判決を待っている状況だ。 こうした腐敗の一部は賭博がらみで、八百長でギャンブルの結果を操作しようというものだ。加えて賭博よりももっと“中国らしい“不正もある。代表入りするかどうかボーダーの選手は賄賂を送る必要があったり、官僚が自分の街のチームを勝たせるために八百長を指示したり、といった不正も多いという。中国語には「灰色収入」という言葉がある。明らかな贈収賄は黒だが、お願いごとをする時のちょっとした贈答品なら灰色という扱いでいいでしょうという意味だ。こうして、いたるところで賄賂が飛び交うわけだ。汚職撲滅に取り組む習近平政権誕生後はこうした不正は減少したと言われるが、ゼロになったわけではない。 金満好待遇でやる気を失うだけでなく、実力よりコネと賄賂が重視されるアンフェアな環境にやる気を失うスポーツ選手も多いようだ。2008年、私は中国のバーで、一人の大学生と知り合った。サッカー推薦で名門大学に入学したというのだが、すでにやる気はゼロで日々楽しく飲んだくれているという。 「がんばっても意味はない。ピッチで勝負が決まらない、腐った世界だから」と完全に諦観していた。さすがに当時よりは良くなっているだろうと思っていたのだが、2022年に大疑獄が発生してもなお、全く変わる気配のない中国サッカーの闇を感じたのであった。 高口康太 ジャーナリスト 千葉大学客員教授 1976年千葉県生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中華人民共和国・南開大学に中国国費留学生として留学。中国経済、企業を中心に取材、執筆を続ける。著書に『中国「コロナ封じ」の虚実―デジタル監視は14億人を統制できるか』(中央公論新社)など。 デイリー新潮編集部
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