よくわかる「ニューロダイバーシティ」 企業の対応は? Neurodiversity at Work代表 村中直人氏に聞く
自閉スペクトラム症など脳や神経に由来する特性を障害ではなく多様性ととらえる「ニューロダイバーシティ」。国内外で採用に力を入れる企業が広がり、特性の違いを生かすための指針を経済産業省が打ち出すなど注目を集めている。ニューロダイバーシティ推進のコンサルティングや研修を手掛けるスタートアップ、Neurodiversity at Work代表で臨床心理士・公認心理師の村中直人さんに、基礎知識から国内外の取り組み状況、企業に求められる対応などについて聞いた。
きっかけはインターネットの普及
――最近、ビジネスシーンで「ニューロダイバーシティ」という言葉を見聞きすることが増えています。 「ニューロダイバーシティは、脳・神経を表す『ニューロ』と『ダイバーシティ』を組み合わせた造語です。1990年代後半に、自閉スペクトラム症の方々のオンラインのコミュニティーで使われ始めました。1990年代後半はインターネットが一般に普及し始めた時期。自閉スペクトラム症の人が立ち上げた電子掲示板(BBS)やメーリングリストにワッと当事者が集まった」 「医学的には自閉スペクトラム症は社会的コミュニケーションの困難が主な『症状』とされているように、地域で孤立しがちでした。インターネットでのテキスト中心のやり取りは、自閉スペクトラム症の人が苦手とするような『ニュアンスを読み取る』などの曖昧さが小さいという側面があるのと、物理的な距離を超えてつながることができるのも大きかった。自閉スペクトラム症の人口は多くても数%。それまで当事者の方々は共感し合える人に出会うチャンスが少なかったんです」 ――インターネットの普及でコミュニケーションの壁が取り除かれたんですね。 「当時の資料で、『私たちはインターネットに出合うことで初めてコミュニティーを楽しむという経験をした』という当事者の方のコメントが残っています。それまで自閉スペクトラム症はコミュニケーション能力が劣っていると思われてきたけれど、オンラインのコミュニティーでは問題なくコミュニケーションをとっていて、共感し合えている。能力の高い低いではなく、脳や神経の多様性として考えようと当事者が声を上げ始め、そこで旗印となったのが、『ニューロダイバーシティ』という言葉でした」 「ニューロダイバーシティの『元ネタ』は生物多様性です。1990年代は環境問題への関心が高まり、生物多様性の考え方も広く知られるようになっていました。生物多様性が対象とするのは特定の生物ではなく、地域の、地球全体の生物に多様性が担保されているかどうか。生物多様性が尊重されるべき多様性ならば、人間の脳の多様性だって同じく尊重されるべき多様性なんじゃないかという発想からニューロダイバーシティという言葉が生まれました。特定の人たちのためではなく、すべての人のための言葉であるところが大事なポイントです」 「神経科学、認知科学の観点から見ても、人間の脳や神経のデータを取ると平均の集合体である『典型例』は、実際には極めて少ないことが知られています。どうしても『大多数の人が典型例に当てはまり、一部そこから外れる人たちがいる』と思われがちですが、典型例といわれる範疇(はんちゅう)にいる人たちのデータも多様なんです」