よくわかる「ニューロダイバーシティ」 企業の対応は? Neurodiversity at Work代表 村中直人氏に聞く
テレワークと出社の比率、睡眠、メモ取り…
――テレワークと出社のベストな比率に個人差があるという発想はありませんでした。 「ニューロダイバーシティの対義語は『ニューロユニバーサリティ』で、人間を似た者同士として扱って、1つのベストな施策を実行すればうまくいくと考えるスタンスです。ところがテレワークとオフィスワークの比率一つとっても脳や神経の個性によって個人差が出てくる。ニューロダイバーシティの発想から出発すると、施策のつくり方も変わってきます。完全に個別対応にするとマネジメントコストが上がり過ぎてしまうので、テレワークとオフィスワークの比率にいくつか選択肢を用意して選べるようにする。個人差に注目すると、どんな選択肢を用意すれば生産性を最大化できるかを考えることが経営課題として求められるようになります」 「何時に起きて何時に寝るのが最もその人にとって健康的で生産的かという『クロノタイプ』も人それぞれです。始業や終業時間を柔軟に選べるフレックス勤務を導入していても、クロノタイプまで踏み込んで制度を設計している企業はほとんどありません。他には『メモ取り』の例もわかりやすいかもしれません。話を聞きながらメモを取るという行為は、実は能力としては複雑で、耳に入ってきた音を瞬時に言葉として認識する『音韻処理』を進めながら、音から言葉にした情報を聞きためる『ワーキングメモリー』を働かせて、それを手に伝え、手が動く『微細運動』までたどり着いて初めてメモが取れる。そうした一連の神経系の働きが全部スムーズでないとできないので、1カ所でも滞るならその場でメモを書くことが非効率である人もいるんです。ニューロダイバーシティの発想があれば、学校でも会社でも『大事な話は必ずメモを取る』という指導にはならないはずです」
企業がニューロダイバーシティ推進に取り組むメリット
――いま1つの制度しかないところを個別最適化するにはコストも必要になります。そのメリットはどう考えるといいでしょうか。 「従業員の脳や神経の個人差に注目して対応できると、認知的多様性の高い組織になることが大きなメリットです。認知的多様性というのは物事の考え方や知識、アイデアなどが多様に飛び交っている状態で、イノベーションが生まれやすい状態ともいえます。ここで重要になるのは、認知的多様性が高く、いろんな意見にさらされる状況は心理的安全性が脅かされやすい環境でもあるということです。ニューロダイバーシティから出発して分析すると、イノベーティブな組織にしていくために、自社でどう認知的多様性と心理的安全性を担保していくか、問題を整理していくことができます」 「個人差を生かして働ける選択肢を用意して、従業員が個々に調整できるようにする『アコモデーション』(環境適応のための調整機能)の責任者を置いて制度を整えていくことを提唱しています。自社のニューロダイバーシティの実態を把握して、適切な選択肢を設計する。全社の全領域を一気に変えられなくても、テレワークや勤務時間など、自社にとって優先順位の高いテーマから取り組んでいけばいいのです」