よくわかる「ニューロダイバーシティ」 企業の対応は? Neurodiversity at Work代表 村中直人氏に聞く
経済産業省が情報発信
――国内企業の状況はいかがでしょうか。 「海外では10年くらい前から主に発達障害者の雇用の文脈でニューロダイバーシティという言葉が広がり始めました。独ソフトウエア大手SAPが、自閉スペクトラム症向けの採用と入社後の支援プログラムを整備した取り組みが有名ですね。国内はこの3年で少しずつニューロダイバーシティが知られるようになってきた状況です」 「やはり障害者雇用を拡大するキーワードとして使われていて、経済産業省が2022年に『ニューロダイバーシティの推進について』というウェブページを公開して情報発信を始めました。先進的な事例としてはオムロンが『異能人財採用プロジェクト』という活動を推進し、IT(情報技術)分野にたけた発達障害のある人材が活躍できるよう、インターンシップやサポートなどの仕組みを整えています」
人的資本経営推進のカギ
――ニューロダイバーシティをマイノリティーの問題にせず、すべての人が対象になるものとして推進する「日本型ニューロダイバーシティ」を提唱していますね。 「ニューロダイバーシティはもともとすべての人の脳や神経の多様性に注目する考え方です。この考え方は経営者目線でも重要になってきます。ニューロダイバーシティを障害者雇用のキーワードとしてとらえてしまうと、経営課題の中の人事戦略の一部に障害者雇用があって、さらにその中の発達障害の方の採用や就業支援に関わるものと狭く位置付けられ、トップマネジメント層がコミットして取り組むべきテーマになりにくい」 「ニューロダイバーシティは人的資本経営を推進するためのカギとなります。少子高齢化が進み、限られた人材の能力やエンゲージメントをいかに最大化していくかを考え、実行することが求められるなか、科学的な根拠のある施策を打つにはニューロダイバーシティの観点が欠かせません。これはまだ海外でも取り組みが進んでいない部分で、日本の好事例を世界に発信していく流れをつくっていきたいと考えています」 「例えば新型コロナウイルスの流行が落ち着いてから、『テレワークとオフィスワークのどちらが生産性が高いのか』という議論が起こりました。生産性が最も高まるようなテレワークとオフィスワークの割合には個人差があります。社会情報に対する感度は人によって違うので、周囲にたくさん人がいた方が覚醒水準が上がって集中できる人と、できるだけ人が少ないほうが集中してパフォーマンスが高まる人がいる。コミュニケーションスタイルもテキストコミュニケーションの方が得意であればテレワークに向きやすい。それはもう障害などは関係なく、どういう場所でどういう働き方をするのが自分にとって最も働きやすいのかは、科学的なニューロダイバーシティの視点から再検討する必要があるでしょう」