電子マンガの“弱点”とは? 見開きページに関する脳科学研究を徹底解説!
スマホの電子マンガは一般に縦長だが、紙マンガは「見開きページ」。言語脳科学の分野でユニークな研究を進める東京大学教授・酒井邦嘉さんは、著書『デジタル脳クライシス』の中で、紙マンガと電子マンガでは、脳が受け取る情報の量や質に差があると指摘している。緻密な実験データから推察する電子マンガの“弱点”について、本書から一部を抜粋・再編集して解説する。 【図版】文中の図版はこちらでご覧いただけます ■マンガの見開き提示による効果 マンガを読むとき、その描画に対応した視覚野の活動が高まることになります。 人間を対象とした脳研究では、物体そのものの視覚的認知だけでなく、頭の中で視覚的イメージを思い浮かべたときも、視覚野を中心とするネットワークが働くことが報告されています。 映画やアニメーションのように視覚刺激が時系列に従って変化するなら、言語処理における「文脈理解」の効果と同様に、予測処理によって視覚的イメージが喚起され、新たな心的状態が生じうると考えられます。さらに人物が現れて顔の表情などが描かれている場合には、同時に「共感(empathy)」が生じるでしょう。共感とは対象の心的状態を推定してその行動に反応する能力で、女性優位の性差が知られています。 次に紹介する研究論文は、株式会社コアミックス(コミックの出版社)との共同研究で、「マンガの文脈による心的状態を反映した脳活動」というタイトルです(※注1)。この研究では、マンガの提示方法によって、文脈理解や共感が脳活動にどのような影響を与えるかを調べました。 紙媒体の日本のマンガでは、2ページの見開きの中にさまざまな大きさのコマが割り当てられ、右上から左下へとストーリーが流れるように構成され、作者の意図や表現がより効果的になるように描かれています。たとえば、それぞれの見開きで表現されるストーリーの一貫性や、見開きの最後のコマに込められた次ページへの期待感や意外性などが、マンガに共通して見られる重要な表現要素となっているのです。 ところが、近年のスマホの普及に伴って、縦に長い画面で1ページずつ表示されるマンガを読むことが多くなっています。もともと見開き単位で読まれることを想定していたマンガを1ページごとに分断することによって、効果的な表現や文脈の読み取りを阻害している可能性があります。