電子マンガの“弱点”とは? 見開きページに関する脳科学研究を徹底解説!
後頭葉の視覚野と小脳の領域について、共感課題とControl課題を比較した際の活動範囲を調べたところ、どちらの領域においても1page条件より2pages条件のほうが倍増していることが分かりました(図25)。 この研究で明らかになった視覚野の活動上昇は、視覚的な想像力が文脈理解によって高まることを示しています。 実際、視覚野の活動が2pages条件に比べて1page条件で半減したのは、もともと一つの見開きページが分断されたことにより、作者が意図したストーリーの文脈の理解が困難になり、選択的注意や共感度が減弱したことが主要な原因だと考えられます。 大脳で意識的に行われる処理を無意識化する働きがあり、言語や思考の役割も指摘されています。読書などにおいては、表現者の意図をくみ取るための思考が必要ですが、その過程は熟練によって高度に自動化され、論理的な展開を意識的にたどらなくとも、ある程度まで結論が予想できるようになります。そうした過程では小脳が特に重要な役割を果たすと考えられ、文脈が把握できたかどうかで小脳の活動が左右されるでしょう。見開きの分断により、文脈に応じて処理される思考過程が影響を受けた可能性があるのです。 先ほど紹介した研究結果から、「見開き」という提示方法が、記憶や視覚的イメージ、そして共感にまで影響を及ぼすことが分かりました。 つまり、たとえ扱う内容が同じだとしても、脳が受け取る情報の量や質は提示のしかたによって左右されうるということです。情報の送り手が伝えたい内容をどのように表現するのか、そして情報の受け手が紙のノートにメモするなどしてどのように受容するのか、という一つひとつのプロセスが大切です。そうした日々の積み重ねは、学習はもちろん仕事の質にまで影響するわけですから、高い問題意識を持ちたいものです。 ※注1)八木橋正泰、酒井邦嘉:マンガの文脈による心的状態を反映した脳活動. Brain and Nerve 73: 79-87, 2021
酒井邦嘉