電子マンガの“弱点”とは? 見開きページに関する脳科学研究を徹底解説!
それでは、共感課題で得られたページごとの共感度を見てみましょう。共感度は読みの進行度に伴って上昇しましたが(図23)、ストーリーの終結部(70-100%)では、2pages条件(実線)の共感度が1page条件(破線)より有意に高く、終結部の共感度(2条件の平均)は女性群のほうが男性群より有意に高いことが明らかとなりました。 以上の結果から、1page条件において文脈の読み取りが阻害されており、そのことが共感度の有意な低下につながったと考えられます。 これらの課題を行っているときの脳活動をfMRIで測定したところ、共感課題に注目した比較(2pages-Conという引き算で、比較条件の間で脳活動が上昇した分が抽出されます)では、高次視覚野である両側の後頭葉から頭頂葉にわたって有意な活動が見られ、小脳の一部も活動しました(図24-A)。さらに2条件の直接比較(2pages-1page)では、右の下頭頂葉から角回(かくかい)・縁上回(えんじょうかい)にかけて活動が局在しました(図24-B)。 過去の臨床研究によれば、右の下頭頂葉の障害によって「左半側(はんそく)空間無視」が生じることが知られています。 半側空間無視とは、図形全体の把握はできるのに、それぞれの図形の左半分に注意を向けたときに正常な知覚ができなくなる障害です。たとえば時計の絵を描くように指示すると、患者は文字盤を円として描くことはできますが、その円の中で長針・短針や数字を右半分だけに描きこみ、左半分の存在を無視するのです。 半側空間無視は、実際に物を見るときだけでなく視覚的イメージにおいても起こることが知られています。その一方で、右前頭葉を含む広範な虚血により視覚的イメージにおいてのみ無視が見られたケースや、視覚的イメージでは無視が生じないという相反する症例も報告されています。 マンガを見開きで読んでいるとき、右下頭頂葉で観察された活動上昇は、「見開き」という作品の全体的な構造から、個々のページやコマ割りという部分をとらえる際に必要な、選択的注意などの認知機能を反映している可能性があり、とても興味深い結果です。 理解度と共感度の性差に基づいて、女性のみで同様の直接比較を行ったところ、先ほどの右下頭頂葉の活動が確認でき、さらに右下前頭回にも活動が見られました(図24-C)。この右下前頭回の活動が高い理解度と共感度を反映しているようです。 視線を介するコミュニケーションについての研究によれば、自閉症患者は右下前頭回の活動が健常者より低下するという報告があります。マンガの表現では特に登場人物の目の描写が重要だと考えられており、そのような描写に視線を向けることで誘起される共感では、右下前頭回が重要な役割を担うと予想されます。 共感課題の脳活動について、共感度の高かった条件に限定した比較では、両側の後頭葉などに活動の上昇が見られ、それは視覚的注意が共感度とともに高まった可能性が考えられます(図24-D)。