なぜ箱根駅伝アンカーでの駒大“大逆転ドラマ”が起きたのか?名将「不思議な勝ち方を…」
「ちょっと不思議な勝ち方をさせていただきました。箱根では稀というか経験したことがないですね。ビックリしています」と駒大・大八木弘明監督が戸惑うほどの幕切れだった。 往路でサプライズVを果たした創価大は復路も快調にレースを進めていく。往路終了時に2位と2分14秒あったリードは9区を終えて3分19秒に拡大。初優勝は目前だった。首位争いにほとんど変化のなかった復路だが、最後に劇的ドラマが待っていた。 トップを走るのは創価大・小野寺勇樹(3年)、追いかけるのは駒大・石川拓慎(3年)。両校の指揮官たちも10区で大逆転が起こるとは想像していなかった。 創価大・榎木和貴監督は、「アンカーの小野寺に渡った時点で2分あれば逃げ切れるかなと思っていたんです。9区石津佳晃が3分19秒差にしてくれたので、自分のなかでも気の緩みがあったのかもしれません」と振り返る。 一方、駒大・大八木弘明監督は、「3分19秒離されていたので、2番確保かなという思いがありました。そのなかでアンカーの石川には『区間賞狙いで思い切って行きなさい』という声をかけていたんです」と話している。決して大逆転を狙っていたわけではなかった。 両者の差は蒲田(5.9km地点)で2分45秒、新八ツ山橋(13.3km地点)で1分57秒になっていた。新八ツ山橋を石川が区間トップで駆け抜けていったのに対して、小野寺は区間15番目とペースは上がっていなかった。 「落ち着いて走り、残り5kmをしっかりとペースアップできれば、前の選手と同様に後半も崩れない走りができるかなと思っていました。小野寺は最初からペースがそんなに速くなかったんですけど、13~14kmぐらいから鈍ってきた感じがあったんです。あと10km近くありましたが、まだ2分近い差があったので、なんとかなるだろうと思っていました」と榎木監督は”逃げ切れる”と読んでいた。 しかし、新八ツ山橋あたりから事態が急変する。 「残り10kmを切って、どんどんペースが落ちてきたんです」と榎木監督。追いかける駒大・大八木監督は、「5km14分40秒くらいのペースで10kmくらいまで行きました。その時点ではまだ2分くらいの差があったと思います。そこからの5kmでみるみる差が詰まったんです。もしかしたら、という気持ちが出てきました」と“空気”が変わり始めたのを感じていた。 新八ツ山橋(13.3km地点)で1分57秒あった差は田町(16.5km地点)で1分17秒に。わずか3.2kmで40秒も縮まった。15kmを過ぎて大八木監督が乗る運営管理車からも創価大の背中が見えてきた。そこからは「区間賞と優勝の2つを狙っていこう!」と大八木監督の声が飛ぶようになる。そして、あの掛け声も。 「男だろ!」 箱根路に幾度も響いた大八木監督の檄が石川の背中を押した。