学校の課題を解決するヒントに「教育書」厳選10冊 日常とは違った視点で課題を読み解く読書の力
大学FD入門(著:中井俊樹ほか)
大学関係者にも1冊おすすめを紹介したい。『大学FD入門: 教育改善に取り組む人の必携ガイド』(ナカニシヤ出版)だ。 本格的な少子化時代を迎え、今や日本の大学は淘汰の段階に突入している。今後、大学が生き残るためには何が必要なのか。そこで注目されているのがファカルティ・ディベロップメント(FD)だ。 授業内容や方法を改善するための組織的取り組みであるFDは、古くて新しいテーマといえるが、FDとは何をするのか? どんな知識が必要か? この1冊で基本から具体的な方法、体制づくりまでを学ぶことができる。 大学には研究と教育という2本柱があるが、日本では研究と比べ教育は軽視される傾向にある。そもそもFDは欧米で大学が大衆化される過程で、質の悪い教育が展開され、伝統的な大学教育へ回帰しようとする動きから生まれたが、どうすれば日本の大学でFDを根付かせることができるのか。FDの実践に役立つ知識・手法・工夫がまとめられている。
ひっくり返す人類学(著:奥野克巳)
最後は、視点の異なる書籍を1冊紹介したい。『ひっくり返す人類学――生きづらさの「そもそも」を問う』(ちくまプリマー新書)だ。 常識をひっくり返して「そもそも」を問う思考法には、問題を定義し直し、より本質的な議論に導く力がある。著者である奥野氏に取材した「人類学で当たり前をひっくり返す『教える・教えられる』を超えた学びとは」では、“当たり前”という思い込みのメガネを外したとき、学校教育はどう見えてくるのかをテーマに取材をした。 世界には、「貧富の差」のない共同体や、学校に行かず「教わる」という概念も持たない社会が存在するが、本書は学校教育や貧富の格差、心の病、自然など、身近で大きな社会・環境危機に人類学で立ち向かう1冊となっている。 「人類学の視点で“解きほぐ”してみても、現実が大きくガラッと変わることはない。それでも大切なのは、教育に携わる人が、想像力を持って自分たちの目の前にある現実を見つめつつ、それとは違う現実、多元的世界(プルリバース)があることに気づくこと、その世界に触れること。それによって変容していく自分自身を生徒や周りの人々に見せることこそが、教育なのではと私は思っている」 こう奥野氏が話すように「動いている世界でどうするか、想像力と創造性を持って考えることが大事」という人類学から見たメッセージが体感できる。 (注記のない写真: Ushico / PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部