なぜ東京五輪女子マラソン“最強の補欠”松田瑞生は名古屋で独走Vの後に号泣したのか
あの日の“悔し涙”から1年。3月14日の名古屋ウィメンズマラソンで松田瑞生(25、ダイハツ)が涙のゴールを迎えた。後続を2分40秒以上も引き離す圧倒的な強さでの優勝。レース直後のインタビューで涙の理由を問われると、「悔しかったです」と松田は予想外の答えを口にした。 「昨年の自分を超えられず、不甲斐ない走りをしてしまい、本当に申し訳ございませんでした。うれし涙を流したかったんですけど、実力が足りず、まだまだ邁進していかないといけないなと感じました」 声を震わせてのヒロインインタビューとなったが、松田はとにかく強かった。 中間点を1時間10分30秒で通過する予定の第1集団には、松田、佐藤早也伽(26、積水化学)、上杉真穂(25、スターツ)、福良郁美(23、大塚製薬)の4人がついた。5kmを16分40~45秒ペース(キロ3分20~21秒)で進む予定だったが、強風が吹き荒れ、向かい風や横風が行く手を阻んだ。 そのなかで最初の10kmを33分02秒で通過。向かい風がありながら、予定より20~30秒も速く入った。「もう少しペースを落としてほしい」という気持ちを込めて、松田は先頭を走るペーサーの名前を何度も呼んだが、思うようにはいかなかった。 第1集団を担当した4人のペースメーカーのうち、2人が10kmで離脱すると、福良が11km付近で、上杉も12km付近で集団から脱落。13kmでペースメーカーがもう1人いなくなった。 その後は、ケニア人ペーサーのローズメリー・ワンジル・モニカ(26、スターツ)が引っ張るかたちになり、選手たちから風をガードするには明らかに人数が足らなかった。厳しいレース展開に苦しみ、昨年の名古屋で2時間23分27秒をマークした佐藤も中間点を過ぎて遅れた。 松田は30kmを1時間40分27秒で通過。その後はひとり旅となるも、根性の走りを見せる。強風の中でも35kmまでの5kmを17分02秒、40kmまでの5kmを16分59秒でカバー。終盤の12.195kmは昨年1月の大阪国際よりも35秒も速かった。しかし、自己ベストに4秒届かず、2時間21分51秒でのフィニッシュとなった。 「向かい風の前半が設定よりも速く、そこでエネルギーを使ってしまい、30km時点で余力はあまりない状態でした。でも今回は昨年の自分を超えるという目標がありました。昨年の大阪国際は後半があまりよろしくなかったので、ここで粘らないと新たな自分を見つけられない。苦しいなかでも、粘って、粘って、粘り切れたことは評価してもいいのかなと思います。ただ、どんな状況であっても、私は過去の自分を超えたいという気持ちが強いので、自己ベストを更新できなかったのは悔しいです」 不満を口にした松田だが、日本陸連の瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダーは、「風を差し引けば、2分くらいは良かったんじゃないかなという思いがあります。松田さんは天候が良ければ日本記録(2時間19分12秒)くらいの力はあったんじゃないでしょうか。どんな状況でも大崩れしない。安定性では女子のなかで一番じゃないかなと思います」と評価した。