なぜ東京五輪女子マラソン“最強の補欠”松田瑞生は名古屋で独走Vの後に号泣したのか
山中美和子監督も「朝練習の風を見て、今日はタイムではなくて、勝ちにこだわろう、という声をかけました。本人は悔しがっていましたが、私としては100点満点だったと思います」と教え子をねぎらった。 松田は昨年1月の大阪国際女子マラソンを2時間21分47秒(当時・日本歴代6位)の好タイムで制して、東京五輪の代表切符を手中に収めかけた。しかし、昨年3月の名古屋で一山麻緒(ワコール)が日本人国内最高の2時間20分29秒(日本歴代4位、女子単独アジア記録)を出して代表に内定。松田は補欠にとどまった。 そして昨年3月12日の東京五輪マラソン日本代表内定会見で、今後の目標を聞かれると、「正直なところまだ整理がついていないので……」と口にしたところで、しばらく沈黙。「再スタートを切れるくらい気持ちを戻して、またチャレンジしたいと思います」と話すと、悔し涙がこぼれた。 「競技をやらなければ良かったなと思う日が続いた」という松田だが、多くの応援や励ましの声が届き、マラソンの再挑戦を決意。名古屋に向けては、「過去を相当上回るような練習」を積んできた。山中監督が立てたメニューでは月間走行距離が900kmほどだったが、松田はさらに走り込み、1月の月間走行距離は1400kmを超えたという。自信を胸にスタートラインに立ったが、強風に阻まれ、一山の記録を上回る「2時間20分切り」という目標には届かなかった。それでも終盤の走りは松田の進化を証明したといえるだろう。 今回、松田はマラソンで初めてナイキ厚底シューズの「エア ズーム アルファフライ ネクスト% 」(以下、アルファフライ)を着用している。 「アルファフライで負けたので、アルファフライで勝ちたかった。アルファフライは進み具合が違うと感じていたんですけど、駅伝ではアルファフライを履いて腰を痛めたんです。今回はアルファフライに負けない身体を作ってきました」 過去4回のマラソンは別メーカーの薄底シューズを履いていたが、昨年の名古屋でアルファフライを履いた一山が快走。松田は天国から地獄に引きずり降ろされた。松田はナイキ厚底シューズに履き替えての“リターンマッチ”を決断。当初は2度の優勝を誇る大阪国際をマラソン再起戦にする予定だったが、昨年11月の全日本実業団女子駅伝で腰を痛めたため、2か月後の名古屋へシフトチェンジした。