宇宙の運命を握る「ナゾの物質」ダークマター…最新研究から浮かび上がった「意外な正体」
未知の素粒子か、原始ブラックホールか?
ダークマターとは、いったい何なのでしょうか。実は宇宙と素粒子の研究の業界では、ものすごくホットなトピックとして、数十年もの歳月を要して活発な議論が行われてきています。 先の議論のように、すでに見える物質は除外されています。赤色矮星や褐色矮星のような発見されていない小さな恒星が大量にあるという可能性はどうでしょうか。それらは見える物質(バリオン物質)なので、上記の構造形成における、ゆらぎをならしてしまうというネガティブな効果によって候補となりません。同じ理由により、恒星が最期を迎えたときに形成される天体、例えば、中性子星や白色矮星なども、元はバリオン物質でしたから、ダークマターとはなり得ません。重い恒星がつぶれてつくられる天体起源のブラックホールも、同じ理由で駄目なのです。銀河・クェーサー・活動銀河核などの中心に鎮座する約数十億太陽質量にも上る超巨大ブラックホールの質量を足し挙げても、ダークマターの0.1%程度にしかならないことも、観測から明らかになってきました。 長年、候補かもしれないと考えられてきたニュートリノも、条件を満たしません。宇宙に満ち満ちている火の玉のなごりである3世代(電子、ミュー、タウ)存在する宇宙背景ニュートリノは、数はとても多いのですが、個々の質量が小さいために、ダークマターとはならないことが判明してきました。 スーパーカミオカンデでニュートリノの質量の存在自体が発見され、梶田隆章博士がノーベル物理学賞を受賞しましたが、皮肉にもダークマターとなるには量が足りなかったのです。ニュートリノの質量は、最新の宇宙マイクロ波背景放射などの観測から多めに見積もっても約0.1eVです。1eVは1gの約1033分の1、つまり1兆分の1の1兆分の1の10億分の1です。 その軽いニュートリノは、スピンと呼ばれる自転に相当する性質が、左巻きであることがわかっています。左巻きという性質は、左回転という意味なのですが、地球の自転のように下から見たら逆回転に見えるような本当の回転とは異なり、概念的に名付けられただけのものです。 理論的に予言される筆者お薦めのダークマター候補は、次の4つです。1. WIMP、2. アクシオン、3. 原始ブラックホール、4. 右巻きニュートリノ。他にも、それこそ山のように候補はあるのですが、近い将来に決着がつきそうな候補という観点から、筆者の独断で4つ選びました。それらの性質の違いなどと、どうやって検証するのかについてのアイデアは、次回の記事で説明します。 * * * さらに「宇宙と物質の起源」シリーズの連載記事では、最新研究にもとづくスリリングな宇宙論をお届けする。
高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所