宇宙の運命を握る「ナゾの物質」ダークマター…最新研究から浮かび上がった「意外な正体」
ダークマターは存在する
次に、見えない物質、ダークマターが存在するという話をします。ダークマターが物質と呼ばれるためには、光のように速いスピードで飛び回ってもいけません。速度が遅い(エネルギーが低い)という意味で、冷たい(コールド)ダークマターと呼ばれることもあります。見えない物質、ダークマターが存在すると信じるに足る、科学的な宇宙観測について3点紹介します。1. 銀河の回転曲線、2. 衝突する銀河団の重力レンズ効果、3. 宇宙の大規模構造の種です。 1つ目は、他の銀河内の天体の運動に関する観測によるものです。ここで天体の運動とは、恒星やガスの塊の領域が、銀河の中心を円盤状に回っている回転運動のことを指します。 ここで先に、われわれの太陽系内の惑星の運動を復習しておきましょう。太陽系の形成の起源を考えれば明らかなように、太陽系内の惑星の運動は太陽という恒星の重力のみが主に支配していて、太陽の周りを惑星がそれぞれの公転周期で回っています。例えば、地球が1年で回るのに対し、最も太陽に近い水星は約90日、最も太陽から遠い海王星は約160年など、その周期はさまざまです。 公転軌道の円周の長さも違うのですが、その回転の速度もそれぞれ異なっています。観測により、地球が秒速約30キロメートルで公転しているのに比べ、水星は地球よりも速くて秒速約47キロメートル、海王星は地球よりずっと遅くて秒速約5.4キロメートルです。ニュートンの法則から導出された運動方程式によると、速度は太陽の質量の平方根に比例し、それぞれの惑星の質量に無関係で、太陽からの距離の平方根に反比例するという関係にぴったり合っています。 ところが驚くことに、他の銀河の円盤全体の回転の速さを測定したところ、中心からの距離に関係なく、ほぼ一定だったのです。この半径ごとの速度は「回転曲線」と呼ばれます。これは、太陽系のような惑星の重力が支配的な小さな領域と、銀河全体の大きな領域とではまったく状況が異なることを示しています。 この、銀河の回転曲線(半径ごとの回転の速度)が半径を変えても一定という不思議な現象は、実はダークマターを導入すると解決されるのです。これまでは、銀河の光っている円盤部分のみに着目して、太陽系の惑星の運動のような計算をしていたため、誤っていたのです。光っている円盤部分すら十分に覆い隠すほどのダークマターがつくる球対称の分布を仮定するのです。 その場合、そのハローとも呼ばれる球対称のダークマター分布が、円盤部分の物質の重力源を上回り、むしろ支配的な重力源になります。そして、ニュートンの運動方程式により計算すると、この回転曲線がちょうど一定になるという、一見、非自明な性質が導かれます。1980年にアメリカのヴェラ・ルービン博士らが、銀河中を回転する水素ガスが放出する21センチメートル線(波長が21センチメートルの特殊な電波)の観測から、この回転曲線がダークマターの存在により説明できることを論文として発表しました。銀河の回転曲線は、非常に決定的なダークマターの証拠となっています。