宇宙の運命を握る「ナゾの物質」ダークマター…最新研究から浮かび上がった「意外な正体」
138億年前、点にも満たない極小のエネルギーの塊からこの宇宙は誕生した。そこから物質、地球、生命が生まれ、私たちの存在に至る。しかし、ふと冷静になって考えると、誰も見たことがない「宇宙の起源」をどのように解明するというのか、という疑問がわかないだろうか? 【写真】いったい、どのようにこの世界はできたのか…「宇宙の起源」に迫る 本連載では、第一線の研究者たちが基礎から最先端までを徹底的に解説した『宇宙と物質の起源』より、宇宙の大いなる謎解きにご案内しよう。 *本記事は、高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所・編『宇宙と物質の起源「見えない世界」を理解する』(ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです。
宇宙の運命を握るもの
本記事では、宇宙には見える物質のエネルギーより、ダークマター(暗黒物質)がその5倍近く多く存在し、その強力な重力により物質を引き寄せて、これまで多くの銀河がつくられてきたことを解説します。ダークマターが、銀河同士すらも引き寄せて、より大きな天体である銀河団や超銀河団をつくるなど、これまでに観測されている宇宙の大規模構造をつくってきたのです。 その一方、引力ではなく斥力をもつダークエネルギー(暗黒エネルギー)の量が徐々に増えてきて、ダークマターの3倍近くほどのエネルギーをもつに至り、現在の宇宙を加速膨張させ続けていることを紹介します。つまり、ダークエネルギーこそが、将来の宇宙の運命を握る、極めて重要な役割を担っているのです。 物質という言葉が意味するものは、さまざまな背景により、その定義が異なってきます。しかし、これまでの章で述べられてきたように、素粒子物理学では物質とは、主にクォークでつくられた陽子や中性子のような核子を指します。もしくは、その材料であるクォークやレプトンなどの素粒子を指す場合が多いようです。 核子は3個のクォークでつくられています。陽子はアップクォーク2個と、ダウンクォーク1個です。核子が集まって原子核をつくり、原子核に電子が捕られて原子がつくられます。原子が組み合わさったものが分子ですね。私たちの体は原子・分子からできていますが、最小の単位という意味で、クォークからできていると言っても過言ではないでしょう。この、クォークつまり核子からつくられた物質は、「バリオン物質」と呼ばれます。バリオン物質は光を散乱するので、目に見える物質です。これまで述べてきた反物質も、「反」と付いていますが、核子からつくられているのでバリオン物質であり、目に見える物質です。 実は、宇宙全体の進化を研究する学問である宇宙論では、宇宙の膨張に与える影響の性質から、物質を定義します。それは、宇宙の体積が2倍になればその密度は半分になる、そのようなエネルギー状態をすべて物質と呼ぶことにする、という定義です。ここでいう密度とは、数の密度でもよいですし、質量、もしくはエネルギー密度でも同じ意味となります。質量密度とは、アインシュタインの相対性理論ではエネルギー密度と同じ意味なのです。 見える物質であるバリオン物質は、当然、宇宙論の定義でも物質です。そしてこの宇宙論の定義に従うと、物質とは、バリオン物質である必要すらないのです。