宇宙の運命を握る「ナゾの物質」ダークマター…最新研究から浮かび上がった「意外な正体」
「弾丸銀河団」に残された証拠
2つ目は、弾丸銀河団と名付けられた、衝突する2つの銀河団の観測によるものです。2つの銀河団には、バリオン物質が含まれているので、それらが衝突してX線を出して光ります。その画像から銀河団の位置がわかります。 ところが、重力レンズ効果という別の方法で2つの銀河団の位置を測定したところ、衝突せずにすり抜けている成分がとても多いという結果となりました。重力レンズとは、重い天体の周りでは、一般相対性理論の効果により空間が曲げられ、光が直進できずにレンズとなる天体を中心に集光される現象です。弾丸銀河団の背後にある天体から出た光は、弾丸銀河団の重力レンズ効果によって曲げられます。そこで、背後の天体から出た光を逆算して、弾丸銀河団の質量成分の空間的な分布の画像をつくったのです。その結果、バリオン物質とは異なり、お互いに衝突せずにすり抜けている物質の存在が描き出されました。これは、ダークマターが存在する証拠です。 3つ目は、本章のテーマでもある、宇宙の大規模構造の種としての役割です。宇宙の始まりにおいて、銀河がなかった状態から、太陽質量の約1兆倍もの重さの銀河がつくられるためには、その種となる、密度が濃い(高い)領域が必要です。そうした空間的な密度の濃い薄いは、「密度ゆらぎ」と呼ばれます。元はインフラトン場の量子ゆらぎだったものが、インフレーションを経て、密度ゆらぎとなりました。最初に密度が高いところには、重力により、どんどん物質が集まってきて、どんどん密度が高くなっていきます。逆に、最初に密度が薄い(低い)ところは、どんどん密度が低くなっていきます。このように一方向にどんどん進んでしまうことは、不安定性と呼ばれます。重力の不安定性により、宇宙年齢をかけて、大きく重い銀河がつくられるのです。先に紹介した銀河団は、その銀河が重力で集まった天体、銀河団が重力で集まった天体が超銀河団です。 ところが、宇宙の進化において、質量を担う物質が、見える物質、つまりバリオン物質だけしか存在しなかった場合、大変な問題を引き起こします。見えるということは、光を出したり、光と散乱したりするという意味です。宇宙の火の玉の中で、光とバリオン物質だけがゆらぎをもっていたのであれば、それらは激しく散乱して、それぞれがもっている密度ゆらぎをならして平均化してしまいます。その結果、密度ゆらぎがなくなってしまい、大きく重い銀河がつくられないという問題を引き起こします。これを防ぐためにも、光と散乱しない、つまり見えない物質であるダークマターが必要不可欠なのです。ダークマターの密度ゆらぎの大きいところに、見える物質がどんどん落ち込んでいって、銀河をつくります。最近の理論と観測との進展から、ダークマターは見える物質の約5倍の量で存在しないと観測と合わないことがわかってきました。