実は「船」がモチーフだった…今治ラヂウム温泉本館、建築から1世紀を経て原形判明
その後、国内でも初期の鉄筋コンクリート造りのドームなどが、当時の技術を残す貴重な建造物として評価され、28年に国登録有形文化財に登録された。
見学ツアーや展示会、ライトアップイベントなどで活用される一方、建築当時の資料が乏しいこともあり、建物の歴史や構造の詳細が不明だったため、運営会社は専門家の協力を得て詳細調査に乗り出した。
■思いを大切に
建築やドーム構造の研究者が調査を進める中、令和4年に名古屋大の西沢泰彦教授(建築史)らのチームは増築前の部分が船の特徴を備えていることに着目。視察の結果、建物中央2階の外壁は船首、最上階の展望スペースは操舵(そうだ)室を模して高度な建築技術を要する三角形のデザインを取り入れているほか、装飾的な段差など船との類似点が約20カ所確認できた。
さらに、さまざまな資料を基に再現したジオラマ模型は船を想起させる姿で、施設が海に浮かぶ船のように見える大正期の写真も見つかった。
西沢教授はこれらを踏まえ「外壁から張り出した塔屋部分は構造的な工夫と高度な技術が必要。船が海の上を航行する姿を建物全体で表現している」と分析。デザインの趣旨が判明しなかった理由について「船の形状が増築部分に隠れてしまい、建築背景や建築デザインが忘れられ埋もれてしまった」と説明する。
運営会社によると、これらの調査結果は年内にとりまとめ、文化庁に報告する予定という。担当者は「今治の発展を目的に建設した関係者の思いを大切に、多くの人に建物を知ってもらいたい」と話している。(前川康二)