北の鉄路を考える② 「キハの笛は泣かせる」の巻 帰ってきた令和阿房列車で行こう 第三列車
前回は、ビールの恨みでJR北海道のあれこれをあげつらったが、優れモノもある。 JR特急列車などに乗ると、無料で読める車内誌である。 その名も「The JR Hokkaido」。昭和62年のJR発足時に創刊され、巻頭特集記事16本が「北海道への旅」(北海道新聞社刊)という一冊の本になったほど丁寧に取材している。お勧めは、連載219回を数える「駅弁紀行」だ。 6月号は札幌駅の「蝦夷富士!これぞ北海道海鮮溢(あふ)れ盛り寿司(すし)」をとりあげていたが、文章から溢れんばかりの「駅弁愛」がこぼれ落ちていた。 おかげで心穏やかに長万部駅に着けた。本当はご当地名物「かにめし」を調達したいところだが、今は駅の外へ出て買わねばならなくなり、断念した。 跨線橋(こせんきょう)を渡って俱知安行きが待つ4番線へ。既に新鋭気動車(ディーゼル動車)H100形が待ち構えていた。 お隣の3番線には、北海道でも淘汰(とうた)が始まったキハ40が入線してきた。13時38分発函館行き鈍行だ。ちなみにキハのキは気動車、ハは普通車を示す。 キハ40は、国鉄時代の昭和52年に登場した気動車で、半世紀近く全国各地を走っている。特に北海道とは縁が深く、高倉健が主演した映画「鉄道員(ぽっぽや)」では、キハ40を改造したキハ12が陰の主役でもあった。高倉の親友役を演じた小林稔侍の「(キハの笛を)聞いて泣かされるうちは鉄道員(ぽっぽや)もまだまだ」というセリフは、何度聞いても泣かされる。国鉄時代生まれのキハが奏でる笛の音は、H100形などいまどきの気動車や電車とは全く違う。人生の深みが違うのだ。 「鉄道員」のロケ地となった根室本線幾寅駅も今年3月末、富良野―新得間が廃止となり、時刻表から消えてしまった。まさに往事茫々(おうじぼうぼう)である。 予定を変更し、キハの笛を聴くため誰も乗っていない函館行きに乗りたい衝動に駆られたが、今回の旅も待ち人がいる。 俱知安駅には、サンケイ3号君、ではなくて鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になってしまった鉄道乗蔵(のるぞう)さんがスタンバイしてくれているはず。