なぜ女子マラソンで日本勢はメダルに手が届かなかったのか…ケニア勢とのスピード差と直前の時間変更など振り回された1年
早朝レースに備えて、選手たちは早く就寝する。一山は19時前に就寝したが、スタッフに起こされて、スタート時間の変更を知らされたという。 一山は2週間前から「7時スタート」を想定して生活を送り、ポイント練習も実際のレースが行われる時間帯で行うなど、生活リズムを合わせてきた。1時間遅くなるなら影響は少なかったはずだが、直前の1時間前倒しは就寝、起床、朝食などすべての準備に狂いが生じる。選手たちは相当焦ったことだろう。 大会組織委員会によると、「高温による選手への影響を考慮した判断」だという。なぜもう少し早く決断できなかったのか。選手たちの行動を考えていたのか。サラリーマンが1時間早く出社する感覚で決められたような突然の変更は「アスリートファースト」とはいえないだろう。 暑さを避けるためにスタート時間を1時間早めた女子マラソンだったが、88人中15人が途中棄権。過酷な戦いとなった。気温と湿度は午前6時のスタート時で25度、84%。ゴールタイムに近い8時半は29度、67%だった。皮肉なことに、当日の気温は東京と札幌でさほど差がなかった。 日本人は開催国のメリットを生かして、万全の準備をしてきたが、ノープランで挑んだ方が、余計なストレスがかからなかったかもしれない。通常通り、7時スタートだったら気温はもっと上がっていた。他国よりも暑熱対策が進んでいる日本にはアドバンテージがあっただけに、一山はもう少しメダルに近づけたかもしれない。 選手たちが振り回された印象の強い女子マラソン。24歳の一山が17年ぶりの入賞を確保したことがせめてもの救いだ。世界との差は小さくないが、福士加代子の背中を追いかけてきた一山なら、日本をもっと高いレベルに引き上げてくれるだろう。 (文責・酒井政人/スポーツライター)