「孤独・男性・中年」無差別殺傷事件に共通するキーワード “不審者”監視システムの功罪とは
「この監視システムが見ているのは、頭の微細な振動です。この振動に関する情報は、大脳や小脳ではなく脳幹にある前庭神経核で処理されるので意識されません。耳の奥にある前庭という感覚器官から前庭神経核へ入り、そこから筋肉へ信号が伝わり、頭の位置や姿勢が制御されます。ところが感情が高ぶると、この制御に狂いが生じるのです。頭の位置の制御が狂うと、細かく速く、しかも攻撃性、緊張度、ストレスなどさまざまな感情に対応して特有の動き方をします。無意識の反射で起こるので、人はその振動を自分でコントロールできません」 新さんによると、DEFENDER-Xによる分析では、カメラで得られた人物の顔や頭の画像をピクセルごとに調べる。具体的には、各ピクセルが1秒間に何回変化したか(周波数)、どれくらいの大きさの変化があったか(振幅)という情報を元に、その人の感情を読み取る。その結果、一定の値を超えた人が検知された場合に、「要注意」としてアラートを出すという仕組みだ。
実際に2014年のソチ五輪(ロシア)でこのシステムが使われ、入場ゲートで一日あたり約2600人の“異変”を検知したという。そのうち92%が持ち込み不可の物品を所持していたり、不正なチケットで入ろうとしたりしたといった理由で入場拒否となった。 海外では空港や役所などの公共施設のほか、企業でも活用事例がある。「例えば、製鉄工場やネット通販の倉庫では商品を盗む従業員を、重要エネルギー施設では作業員の不正行為を検知する目的でも使われています」。日本ではスーパーや家電量販店、書店、ブティックのような小売店などで導入されているという。
同システムは、市販の動画カメラとパソコンさえあれば設置、導入が可能だ。ただし、懸念もある。罪を犯す可能性のある人物を事前に検知できるのは犯罪防止としては有益に映るかもしれないが、本当にその人物が罪を犯すかどうか、未来に起こることまで把握はできない。犯罪の事実がないのに、呼びかけや拘束などをした場合、重大な人権侵害につながりかねない。そうした観点から、システムの運用には難しい面がある。 「検知の精度は相当高いですが、100%ではありません。ただ、予防的に運用することは可能です。例えば、カメラ画像による分析で『赤枠』が表示された人に対して、『何かお困りではありませんか』と声をかける、あるいは警備員を近くに配置する、などの対応をすれば、抑止効果が発揮できるでしょう。事件が発生した後でも、あらかじめ警戒していれば迅速な対応を取ることができます」