「孤独・男性・中年」無差別殺傷事件に共通するキーワード “不審者”監視システムの功罪とは
こうした暴発事件はどうすれば防げるのか。なぜ事件が起きたのか。そんな質問を磯部さんは受けるが、対策はわからないと率直に語る。そして、わからないからこそルポを書いていると語る。 「2019年5月28日、川崎市の登戸駅近くでスクールバスを待つ私立カリタス小学校の児童ら2人を刺殺、18人に重軽傷を負わせた事件がありました。直後に自殺した男(当時51)は、社会との接点を持っていませんでした。携帯電話もパソコンも持たず、身を寄せていた伯父宅の家族とも交流していなかった。彼のように孤立した人物の犯行のサインを事前につかむのは困難です。しかし、なぜ事件が起きたのかというヒントを探すことはできるはずです。例えば、彼が目にしてきたはずの川崎の街の移り変わり、あるいは『一人で死ね』と突き放すような世間の反応。犯人が抱えていた問題、置かれていた環境の変化から読み解けることはあります」
警察庁のアンケート結果のように、無差別殺傷事件への懸念は増している。無差別殺傷事件の数は継続的に増えているわけではなく、この四半世紀でも年間で数件から10件前後での推移だ。だが、2021年のように世間の耳目を集める事件が連続して発生した年もある。そのため、主観的に感じる「体感治安」が悪化しているのだろうと磯部さんは見ている。
「マスメディアの報道やSNSでの活発な意見交換により、事件の記憶が強化されている面があると思います。暴発事件に対する社会の反応を見ると、犯人を『モンスター』として突き放すか、ある種の『ヒーロー』として持ち上げるかのどちらかに振れる傾向があります。しかし、モンスターもヒーローも表裏一体です。加害者を二極に分け、特別の存在とくくるのではなく、ルポを通じて多様な視点を提示していきたいです」
エルシス・ジャパン 新久雄さん「犯罪可能性のある人物を検知します」
「2015年6月30日、東海道新幹線車内で男が焼身自殺し、乗客ら29人が死傷した放火事件がありました。事件後、男の足どりを調べた結果、住宅地に設置された監視カメラに、ガソリン入りのポリタンクを持って歩く姿が捉えられていた。その録画映像を私どものシステム『DEFENDER-X』で解析したところ、この男に赤枠が表示されました(図)。要注意人物として検知することができたのです」 エルシス・ジャパン(東京・品川区)の技術部マネージャー、新久雄さんはそう語る。同社はロシアの研究機関で開発された基盤技術を独自に応用開発し、不審者を検知する監視システムの「DEFENDER-X」を販売している。DEFENDER-Xは、動画内に映る人物が「攻撃性を持っているか」「緊張しているか」「高いストレスを感じているか」などを検知できる。リアルタイムで中継されている動画でも、過去に記録された動画でも検知は可能。そのため、昨夏の安倍晋三元首相銃撃事件、今春の岸田文雄首相襲撃事件の加害者も、路上の監視カメラ映像から要注意人物として検知できたという。