「孤独・男性・中年」無差別殺傷事件に共通するキーワード “不審者”監視システムの功罪とは
専門的な知見を踏まえ、罪を犯した人物の履歴からリスクファクターをリストアップすることはできる。また、それらの要因を数値化してコンピュータで分析すれば、罪を犯す可能性の高い人物を割り出すこともできる。だが、それがわかることだけでは意味がないという。 「例えば、虐待を受けた子どもがいた場合、その親を再教育することが被害を断ち切るために必要な措置です。つまり、問題を抱えた人がいたら支援者を派遣するなどのケアと組み合わせることで、はじめて予測システムは犯罪予防機能を発揮するのです。アメリカではAIによる犯罪予測システムと支援活動は一体化されていますが、残念ながら日本はそこが弱い。最新の犯罪科学を取り入れたシステムを構築する必要があると考えています」 衝撃的な事件が発生した際、犯人の動機にばかり注目するのは必ずしも本質的ではないとも指摘する。これまでの研究から言えるのは、犯罪が起きるのは動機を抱えた人が「犯罪の機会を得た時」なのだという。この考えに基づいて組み立てられたのが犯罪機会論だ。
「この理論が重視するのは、犯罪が成功しそうな場所や状況です。具体的には『入りやすく』かつ『見えにくい』場所や状況のリスクが高い。都会の場合、人の目こそたくさんありますが、逆に犯人は大人数の中に容易に身を隠せる。その意味で、雑踏は入りやすく、見えにくいと言えます」 小宮教授は、この数年に起きた暴発的な犯罪を「自爆テロ型犯罪」と呼ぶ。「通常型犯罪」は、事件後に逮捕されたくないと思いながら犯行に至るが、自爆テロ型犯罪は「逮捕されてもいい」、あるいは「死んでもいい」と思って犯行に及ぶ。安倍元首相銃撃事件、岸田首相襲撃事件、川崎殺傷事件、あるいは京アニ放火事件などは自爆テロ型犯罪に当てはまるという。そして、この種の犯罪は未然に防ぐのが非常に難しい。 「犯罪機会論で重要な防犯のポイントは、犯人が『入りにくく』、犯行が『見えやすい』空間を作ることです。これで通常型犯罪はかなり予防できます。しかし、自爆テロ型犯罪は、それだけで防ぐことは困難です」