「孤独・男性・中年」無差別殺傷事件に共通するキーワード “不審者”監視システムの功罪とは
衝撃的な殺傷事件が相次いで起きている。特定の対象者を狙う場合もあれば、無差別に市民に襲いかかる場合もある。こうした事件では、孤独な男性が突然事件を起こしているのが目につき、連鎖的に続くケースもある。事件を事前に防ぐことは可能なのか、技術的な対策はあるのか。ライターや研究者、監視システム会社の担当者に話を聞いた。(文・写真/サイエンスジャーナリスト・緑慎也/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
ライター 磯部涼さん「男性、中年、孤独というキーワード」
ここ10年で日本の治安が悪化したという印象を持っている人が多い。警察庁が今年2月に発表した「犯罪情勢」(令和4年版)のアンケートによると、「どちらかといえば悪くなったと思う」、または「悪くなったと思う」と答えた人は合わせて67.1%と7割近い数字になった。その要因として最も回答の多かったのが「無差別殺傷事件」で63.5%。次いで「オレオレ詐欺などの詐欺」(62.4%)だった。多くの殺傷事件を取材してきたライターの磯部涼さんは、無差別殺傷事件は連鎖的に起きることがしばしばあると指摘する。 「2021年10月、京王線車内で乗客に切りつけて放火、17人に重軽傷を負わせた事件がありました(京王線刺傷事件)。この男(当時24)は、その2カ月前に小田急線車内で男(当時36)が複数の乗客に切りつけ、放火しようとした小田急線刺傷事件を参考にしたと供述しています。あるいは、2019年7月、京都市伏見区の京都アニメーションのスタジオが放火された京アニ放火殺人事件も連鎖を生みました。2021年3月、徳島市でアイドルグループのライブが開かれていた雑居ビルが放火された事件(加害者は当時38)、同年12月、大阪市の雑居ビルの心療内科が狙われた放火事件(加害者は当時61)は、いずれも先行する事件を参考にして起こされたと見られています」
磯部さんは、2019年に起きた京アニ事件や川崎殺傷事件など一連の暴発的な事件を取材し、『令和元年のテロリズム』という本にまとめた。こうした事件を取材する過程で、犯人に多く共通するキーワードがあると感じたという。「男性」「中年」「孤独」だ。 「個々の事件を詳しく見れば、家庭環境であったり、本人の精神的な状況であったり、それぞれの背景が複雑に絡み合っています。ただ、共通する属性として『男性』『中年』『孤独』が当てはまるケースが見られるように感じます。京アニ放火事件を起こした加害者もそうです。彼は父親、妹、兄をそれぞれ自死で失い、放火事件前に起こした2度の犯罪により母親からも見放されていた。定職に就けず、家族とも社会とも切り離された孤立無援の41歳の男性でした。なぜ彼はあんなことをしたのか。取材では、彼が見ていた風景を描きたかったので、何度も現場に足を運びました。事件前日の晩に訪れた公園にも行きました。がらーんとした高架下の公園です。彼はそこのベンチで寝たそうです。夜の公園からは隣接するマンションや、(犯行に使った)ガソリンを購入したガソリンスタンドが見えました。しかし、同じ風景の中に身を置いても、やはりなぜあんな事件を起こしたのかはわかりませんでした」