環を持つ衛星が見当たらないのは偶然の結果? 少なくとも力学的には月も環を持てることが判明
「土星」を始めとして、太陽系のいくつかの天体には環があります。環は、直径数万kmの巨大な惑星だけではなく、直径が数百kmしかない小惑星にも見つかっています。しかし、太陽系に数百個ある衛星の中で、環を持つものは1個も発見されていません。これまで、直径数百km以上の衛星の多くは巨大惑星の周辺を周回しているため、重力の関係で環が安定しないのではないか、と考えられてきました。 土星のような環を木星が持たないのはなぜか、その理由に迫った研究成果(2022年7月23日) これを確かめるため、アドルフォ・イバニェス大学のMario Sucerquia氏などの研究チームは、力学的なシミュレーションを行い、衛星周辺に環が存在できるかどうかを検討しました。その結果、いくつかの衛星では安定的に存在する環が存在可能であるという、事前の予想に反する意外な結果が得られました。シミュレーションの長さは100万年程度と短いですが、より長期にわたって環が存在する可能性は十分にあります。 そうなると、衛星に環がない理由は、たまたま環が存在しない時代に私たちが出現し、天文学を発展させたという、純粋に偶然の結果かもしれません。土星でさえ環の寿命はかなり短いのではないかという推定がある中では、このような偶然はあり得ることです。
太陽系の衛星に環がないのはなぜ?
1610年にガリレオ・ガリレイは、自作の望遠鏡で「土星」を観測し、土星本体に2つの “耳” がくっ付いていると記録しました。1655年にクリスティアーン・ホイヘンスは、ガリレオより優れた望遠鏡で土星を観察し、 “耳” の正体は土星本体の周辺を周回する環であることを初めて記録しました。これは人類が初めて発見した天体の環です。 それからしばらくの間、土星は環を持つことが知られている唯一の天体でした。しかし1970年代から1980年代にかけて、木星・天王星・海王星にも環があることが確認されました(※1)。そして2014年に直径約260kmの10199番小惑星「カリクロー」に環が発見されたことで、環を持つ天体は巨大惑星に限られないことが証明されました。現在では4個の惑星と3個の小惑星(うち1個は準惑星)に環が見つかっています(※2)。 ※1…現在認められている発見時期より以前にも環の発見報告や、環の存在を証明しうる観測記録はいくつか存在します。しかしそれらは、そもそも報告に信頼性がないか、確定した発見報告が公表された後の事後報告の形で発表されています。 ※2…2060番小惑星/95番周期彗星の「キロン」には、2015年から何回か環の発見報告がありますが、否定的な観察記録もあり、不確定性が高いです。仮に、存在するとしても、その構造は激しく変化しているようです。136472番小惑星で準惑星でもある「マケマケ」は、赤外線の過剰な放射は環の存在によって説明可能であるという説が提唱されていますが、環そのものは未発見です。