環を持つ衛星が見当たらないのは偶然の結果? 少なくとも力学的には月も環を持てることが判明
しかしながら、未だに環を持つ天然の「衛星」は1個も見つかっていません。惑星の衛星だけで288個(※3)、準惑星や小惑星の衛星も含めれば867個にも達し、直径数百km以上の衛星も複数ある中で、環が未発見なのは不思議とも言えます。 ※3…土星のF環にあるとされる3個の衛星を含みません。衛星の仮符号が振られているものの、真の衛星ではなく、土星の環の中で生じた一時的な塊であると考えられています。 ただし、現在では失われているものの、かつて環を持っていたのではないかと推定される衛星はいくつかあります。例えば土星の衛星「イアペトゥス」には、高さ約20km・長さ約1300kmの山脈がほぼ赤道に沿って連なっていますが、これは環から物質が降り積もった結果ではないかと推定されてます。 同じく土星の衛星の「レア」には、赤道に沿って青っぽい物質が降り積もっています。また、かつては観測データの分析結果から、レア独自の環が存在すると主張されたこともありましたが、少なくとも現時点で環が存在する明確な証拠は見つかっていません。 衛星の環が、過去には存在したものの現在では失われているならば、衛星の環は不安定であり、すぐに消えてなくなってしまうのかもしれません。大きな衛星は巨大惑星の周辺を周回しており、複数の衛星が密集していることを考えると、強い重力場の下で衛星の環が不安定化して失われる、と考えるのが妥当かもしれません。
衛星は環を持てることが判明!
Sucerquia氏らの研究チームは、衛星の環は本当に不安定で長期的に存在し得ないのかを検討しました。形状が球形となることが保証される10の19乗kg(土星の衛星で直径約400kmのミマスと同程度)より大きく、平均密度が水より大きい太陽系の衛星を対象に、衛星の周辺を周回する環の粒子の安定性を100万年の長さにわたってシミュレーションしました。 その結果、地球の衛星である「月」を含め、多くの衛星が100万年の時間で安定した環を保持できることが分かりました。衛星同士の距離が近い混みあった環境でさえ環が安定するという結果は、研究者自身から見ても予想外です。 明確に環が不安定だと判明したのは、海王星の衛星「トリトン」のみです。今回の研究ではその理由について詳細に検討していませんが、Sucerquia氏らはトリトンが巨大衛星としては唯一の逆行衛星(※4)であることが関係していると推定しています。 ※4…惑星の自転方向とは逆向きに公転している衛星のこと。 トリトンとは逆に、イアペトゥスの環の安定性はかなり高いと判明しました。先述の通り、イアペトゥスの赤道には山脈があり、環の物質が降り積もったものではないかと推定されています。長期的に安定と言っても永久に存在するわけではないため、徐々に環の物質が赤道へと降り積もって山脈となった、という可能性はあり得そうです。 また、かつて環を持つのではないかと推定されたレアは、明確な環こそ見つかっていないものの、レアの周辺の宇宙空間は塵の密度が高いことを示唆する観測データが得られています。この塵は、かつてレアが持っていたかもしれない環の痕跡である可能性を排除できません。