ひとりっ子が考える介護…カリスマ介護士が語った「認知症の親が一番嬉しいこと」
親が子どもに送る、最後のギフト
高口「ご両親にとって嬉しいことは、我が子が自分のために、考えて考えて考えて決めてくれた、ということなんです。親にとっての深い願いは、親の老いに向き合うことで子供たちが自分の老いを悔いなく生きて欲しいということだと思っています。 例えば老衰で充分に食べられなくなった時、管(くだ)を入れて栄養を摂るか、管(くだ)を入れないで自然に弱るか、経管栄養にするとしたら管(くだ)を入れるのはお腹か鼻からかを家族が選ばなければなりません。子供が親の希望を思って決めたのなら、何を選んでも間違いということはありません。 そこで大事なのは、我が子が自分のために、一生懸命考えてくれた、ということだけなんです。 親を看取る経過に立ち会うことで、子どもは親がどんどん食べられなくなり、手の届かないところへ行ってしまう様子を目の当たりにします。 そこで老いるとは死ぬとは、そして親子とは家族とは何だろうとより深く自分のこととして思うことができます。 そして親が望んでいること、私にできることはなんだろうと懸命に考えますよね。その経験は、きっとあなたのその後の人生を支えてくれます。 それは目を閉じて、言葉さえ話せなくなった状況になってもまだ、親は最期に大切なことを教えようとしてくれているんです」 高口さんのこの話を聞き終えたとき、和やかだった会場の空気が少しだけ変わったように感じた。 それはきっと、誰もが誰かの子どもであって、幼き日の親との出来事を思い出していたからではないだろうか。 私も過去の思い出が蘇る。 母は風邪をひいて寝込んでいた私のおでこに手を乗せた。 「まだ熱が高いね。かわいそうに……。変われるなら変わってあげたいよ」 と呟いた。 それが本心だったことを、親になった今ならわかる。 ◇このトークイベントでは、参加者から多くの質問も寄せられた。また改めてその質疑応答との時の様子もお伝えしていく。 文・イラスト/笹本絵里
笹本 絵里(ライター)