アキレスは亀に追いつけない? 「円周率の日」に考える無限とパラドックス
【アキレスと亀のパラドックス】
古代ギリシャの哲学者、ゼノンが唱えたパラドックスに「アキレスと亀」というものがあります。ゼノンは有名なパラドックスをいくつか残したことで知られています。いまから2400年以上前、紀元前5世紀の頃の人物です。 「アキレスと亀」とは、こういうお話です。アキレスがノロマな亀と駆けっこをすることになりました(アキレスは神話に登場する足の速い英雄。ウサイン・ボルトより速いと思ってください)。亀はハンデとして、アキレスの少し先からスタートすることにします。果たしてアキレスは亀に追いつけるでしょうか? 普通に考えれば、アキレスの方が断然速いわけですからいつかは追いつくと思いますよね? しかしゼノンは言うのです。アキレスは亀に永遠に追いつけないと。
【ゼノンの理論】
なぜアキレスは追いつけないのか、ゼノンはこう説明します。 最初に亀がいる位置をAとします(図…(1))。アキレスがAに到達したとき、亀も止まっているわけではないので、少し先の地点Bにいます(図…(2))。次にアキレスがBに到達したときに、また亀は少し先の地点Cにいます(図…(3))。 これをいくら繰り返しても、亀は常にアキレスより前にいるはずです。つまり、アキレスは永遠に亀を追い越せないことになります。 これを読んで、みなさん納得できるでしょうか。「いやいや、そんな屁理屈こねても、現実では追いつくに決まっているでしょ」と思う人が大半なのではないでしょうか。 確かにその通りです。でも、この「アキレスと亀」は2400年以上も学者を悩ませてきた問題です。そんな簡単に否定できる話ではないはず。そう、これはただの屁理屈ではないのです。詳しく見ていきましょう。
【ゼノン理論を検証】
このアキレスと亀の話をもっと深く知るため、3つの検証を用意しました。順に読んでいってみてください。
●検証(1)「追いつくはず!」
まずは、単純に算数のグラフで考えてみましょう。 図とその解説を見てください。ハイ、無事に追いつきました。この検証には何の間違いもありません。完璧な説明です。 ただ、これで問題が解決したことになるかというと違うのです。ゼノンだって算数ができないわけではないですし、本気でアキレスが亀に追いつけないと言っているわけでもありません。 問題は「ゼノンの説明のどこがどう間違っているのか?」です。結論だけ否定しても、説明の間違いを指摘したことにはならないのです。 そこで、ゼノンの説明をもっと詳しく追っていきましょう。