小児救急病院、小児科のみで3億円以上の赤字で病院経営を圧迫-子どもも医師も守るためにできることは
厚生労働省(以下、厚労省)が小児救急入院施設の集約化政策を進めた結果、各地域の病院の小児科が大赤字に陥り病院経営の大きな負担になっている。子どももそして医師も守るための集約化で、なぜ病院の負担が増えているのか。小児救急医療を持続していくために打てる手はあるのか。小児救急拠点病院群の収益性について調査を行った伊藤秀一主任教授(横浜市立大学大学院医学研究科 発生成育小児医療学)が、2024年4月21日(日)福岡市で行われた日本小児科学会学術集会で発表した。
◇集約化で「子どもも小児科医も守る」はずが……
日本では2000年代半ばまで小児救急医療の提供体制は“広く薄く”分散しており、約半数の施設で小児科医の数は2人以下だった。そのため、救急車の受け入れができず子どもが死亡したり、小児科医が過労死したり自殺したりといった問題が山積していた。そのため、厚労省は2000年代半ば以降、24時間365日小児入院救急患者に対応できる小児地域医療センターを人口50万~100万人あたり1か所程度整備する集約化政策を進めてきた。小児地域医療センターを運用するためには、小児科医・新生児科医が1施設あたり10~14人必要となる計算だった。
◇子どもも入院患者も激減、小児救急病院は大赤字に
しかし、その後約20年の間に小児医療を取り巻く環境は激変した。まず、出生数は2004年の110万人から2022年には79万人へと、想定を大幅に上回る速度で減少した。入院患者の多くを占めていた感染症は新たなワクチンの普及により減少し、気管支喘息も吸入ステロイド薬や減感作療法などの新しい治療によって著しく減少した。さらに、2020年からは新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の流行により感染対策が徹底され、インフルエンザなどの季節性感染症が激減した。その結果、ほとんどの小児地域医療センターでは病床稼働率*が大幅に低下し、巨額の赤字が発生した。 *病床稼働率:利用可能な病床数(ベッド数)に対し、どのくらいの割合で患者が入院していたかを示す指標。病床稼働率が高ければ、病床を効率的に運用できていることになり、病院が得られる収益も多くなる。