アキレスは亀に追いつけない? 「円周率の日」に考える無限とパラドックス
●検証(2)「追いつく……のかな?」
ゼノンの説明のポイントは「アキレスが亀のいた場所に着いたとき、亀は少し先にいる」の繰り返しです。検証(1)ではそこを完全に無視していましたが、今度は繰り返しをちゃんと考えた上で、追いつくまでにかかる時間を計算していきましょう。
おや? なにやら怪しくなってきましたね。無限小数が現れました。 ここで「9.99…=10」だと考えれば、10秒で追いつくと言えるでしょう。ただ、こうも言えるかもしれません。「9.99…」は、いくら9を並べていっても永遠に10には届かない。つまりアキレスは、亀に追いつく「10秒後」という瞬間に、永遠に到達することはない……。 なんだかよく分からなくなってきました。では、次の検証(3)もみてみましょう。
●検証(3)「やっぱり追いつかない?」
今度の検証では「アキレスが亀のいた場所に着いたとき、亀は少し先にいる」の繰り返しの回数をカウントしていくことにします。 アキレスが数えた数はいくつまでだと思いますか? 1億? 1兆? いえいえ、それより大きいどんな数だって、アキレスは数えています。なにせカウントは無限に続くのですから、100兆だろうが1000兆だろうが、アキレスが数えていない数は存在しないはずです。つまりアキレスが亀に追いついたときには“すべての自然数を数え終わった”はずです。 でもちょっと待ってください。そんなことできるはずありませんよね。数はそれこそ無限にあって、最後の自然数などというものは存在しません。最後まで数え切ることは原理的に不可能です。 ということは結局、アキレスは亀に追いつくことはできないという結論が出てしまいます。
【3つの検証をまとめると】
検証(1)で、確かにゼノンの結論(追いつけない)自体は否定できたのですが、ゼノンの説明の方を詳しく見ていくと、検証(2)では怪しくなって、検証(3)ではゼノンの言う通り、追いつけないことになってしまいました。 特に、最後の検証(3)がこの問題の核心です。アキレスが亀に追いつくと、無限にあるはずの数を数え切れてしまう。言い方を変えると、有限の時間内に無限の作業が完了してしまう。ここがこのパラドックスのパラドックスたる所以です。 では次に、この問題を昔の哲学者がどう解決したかを見ていきましょう。