ピアノの難曲「ラ・カンパネラ」弾くノリ漁師の映画完成にモデル男性が涙…伊原剛志さん、吹き替えせず演じる
4月に92歳で亡くなった世界的ピアニストのフジコ・ヘミングさんの演奏に魅せられ、独学でピアノをマスターした佐賀市のノリ漁師の男性をモデルにした映画「ら・かんぱねら」が完成した。鍵盤に向き合い、ひたむきに夢を追う男性の姿を通して、夫婦愛や家族の絆も描き出すホームドラマに仕上がっている。(鹿子木清照) 【表】映画「ら・かんぱねら」完成に至った経緯
パチンコやめて出会う「俺も弾きたい」
「皆様のおかげで今日を迎えることができました」。17日、地元向け完成試写会が開かれた佐賀市のホール。舞台あいさつに立った俳優らに囲まれ、一人の男性が涙を流しながら感慨に浸った。主人公のモデルとなった同市川副町のノリ漁師、徳永義昭さん(64)だ。
12年ほど前、長年続けたパチンコで大負けし、やめると時間を持て余した。テレビで偶然ヘミングさんのピアノ演奏に出会い、リストの難曲「ラ・カンパネラ」に耳を奪われた。「魂のピアニスト」が奏でる繊細で柔らかな調べ。「俺も弾きたい」。なぜか、そんな思いが湧き起こった。
妻、千恵子さん(63)はピアノ教室の講師で、ピアノは身近にあった。だが、自身はクラシック音楽に関心はなく、楽譜も読めない。それでも妻のピアノを借り、動画投稿サイト「ユーチューブ」の練習用動画を見ながら、指の動かし方を覚えていった。
ノリ漁の傍ら、多い時には1日12時間以上も練習し黒い鍵盤の角が丸く変形するほど。練習の様子を撮った動画を公開すると、ごつごつした指で繊細な曲に挑む姿が話題となり、2020年1月放送のテレビ番組でヘミングさんとの共演が実現。21年4月には北九州市で開かれたヘミングさんのコンサートで披露した。
奮闘ぶりをユーチューブで知り、映画化を熱望したのが、映画制作会社代表の鈴木一美監督(69)だった。徳永さん宅を訪ね、モデルにさせてほしいと訴えた。「夢を諦めず、希望を持って生きる大切さを映画で伝えたい」と力説した。
一日も欠かさず練習「何とか近づきたかった」
映画は、徳永さんの経験に着想を得たフィクションだ。主人公・徳田時生役の俳優、伊原剛志さんが、ピアノに向き合うひたむきさを、ノリ漁師として生きる姿と重ねて演じる。