老親には"拉致車"にしか見えない…「介護施設に行きたくない」とゴネる親をデイサービスに通わせる方法
■心配して同居するのは避けたほうがいい こういうときは、説得して、無理やりデイサービスに連れて行こうとせず、あえて電話に出る回数を減らしてみるのも1つの方法です。 電話に出てもらえないと、母親の寂しさと不安がだんだん募ってくるので、そのタイミングでデイサービスなどに誘うと、うまくいく可能性が高くなると思います。もし、デイサービスという言葉に拒否反応があるようなら、たとえば先ほどの編み物を教えていた方のケースのように、「今、お年寄りの話し相手になってくれるボランティアさんを探しているらしいんだけれど、お母さん、行ってみない?」と誘ってみるのもいいと思います。 そして、「デイサービスに行くのを嫌がっていますけれど、本来、母は寂しがり屋で、とにかく人と話すのが好きなんです。よろしくお願いします」とケアマネジャーに申し送りをしておくことです。 母親が毎日のように電話をかけてくるようになったとき、娘さんがいちばんやってはいけないのは、「これ以上、寂しい思いをさせるわけにはいかない」と、会社に頼んでテレワークに切り替えて、同居してしまうことです。 そうすると、お母さんの不安は娘さんがそばにいることで解消されてしまうので、デイサービスもヘルパーも必要がなくなってしまうのです。 でも、娘さんのほうはと言えば、介護の専門職でもないのに、自分の生活を犠牲にして、毎日のように母親の不安解消につき合っているわけです。これはとても危ない。仕事に集中できずイライラして母親に当たってしまい、そのことでまた自己嫌悪に陥るという、最悪な負のループに陥ってしまうわけです。 ■頼まれる前に助けるのは、親のためにならない 認知症を発症すると、時にスーパーに行っては同じものを何度も買ってくるという傾向が出ることがあります。その結果、賞味期限切れの食品が、棚や冷蔵庫にあふれ返ることになります。 認知症に限らず、整然と暮らすことができなくなるというのも、老いの現実なのです。しかし、こうした場合でも、子どもが先回りして片づけたりせず、困り事になるまで待つといいと思います。 子どもが頻繁に帰って、賞味期限切れの食品を捨てたり、きれいに片づけたりしてしまうと、親が食品であふれ返った冷蔵庫を前に、途方に暮れることもありません。そうするとヘルパーさんも必要がなくなってしまいます。 本人が行きたいとか、助けてくれと言う前に、子どもが無理やりやらせようとするから怒るんです。「困ったら、本人から言い出すんじゃない?」くらいの気持ちで見守ることが、介護サービスを入れやすくする秘訣です。 ---------- 川内 潤(かわうち・じゅん) NPO法人「となりのかいご」代表 社会福祉士、介護支援専門員、介護福祉士。1980年生まれ。上智大学文学部社会福祉学科卒業後、老人ホーム紹介事業、外資系コンサルティング企業勤務を経て、在宅・施設介護職員に。2008年に市民団体「となりのかいご」設立。2014年にNPO法人化し、代表理事に就任。厚生労働省「令和4~6年度中小企業育児・介護休業等推進支援事業」委員なども兼務する。家族介護による介護離職、高齢者虐待をなくし、誰もが自然に家族の介護にかかわれる社会を実現すべく、日々奮闘中。著書に『もし明日、親が倒れても仕事を辞めずにすむ方法』(ポプラ社)、『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』(日経BP)、『親の介護の「やってはいけない」』(青春新書インテリジェンス)などがある。 ----------
NPO法人「となりのかいご」代表 川内 潤