なぜ大谷翔平のスプリットは打たれないのか…ジャイロ回転とSB千賀の“お化けフォーク“との共通点が判明!
それでも目が慣れれば、大リーグの各打者は適応してくるはずだが、大谷も昨年9月19日からスプリットの握りを変え、フォーシームジャイロからツーシームジャイロになったことで、軌道が変化。相手は、対策の練り直しを迫られることとなった。 ところで、そもそもなぜあれだけ落ちるのか。それを辿ると回転に行きつく。 通常のスプリットはバックスピンがかかっている。となると、少なからずマグヌス効果(揚力)が働く。しかし、大谷のスプリットは、回転軸が飛翔(ひしょう)方向と一致するジャイロ回転で、仮にジャイロ成分が100%なら、揚力はほぼゼロ。そこで軌道の差が生まれる。 大谷のスプリットがジャイロ回転していることは、スローモーションの映像からも分かるが、回転効率を計算することでも確認できる。大リーグではSTATCASTという動作解析システムが15年に導入され、データが一般公開されている。ジャイロ回転をしていれば回転効率は低くなるが、実際に回転数、変化量などから回転効率を計算すると、信じられないような低い値が出る。 また、昨年は大谷のチームメートで、投球全体の35%以上がスプリットというアレックス・コブ(ジャイアンツ)も、「ショーヘイのスプリットはジャイロ回転をしている」と証言。球団の分析チームの中でも話題になっていたようだ。 さて、大リーグではほぼ唯一無二といえるが、日本に目を向けると、大谷と同じような軌道の落ちる球を投げる投手がいる。 それが、ソフトバンクの千賀滉大である。
すでに触れたように、大谷のスプリットがジャイロ回転しているかどうかは、映像のほか、回転効率を計算することで裏付けられる。千賀の場合はデータがないので、数値的に証明することはできないが、映像を見る限り、ほぼ間違いない。そのことはもちろん、大リーグにも知れ渡っていて、故にあるア・リーグのスカウトは、「あのフォークがこっちでも自在に操れるなら、確実にメジャーでも計算の出来る先発投手となるだろう」と断言するのである。 そのことは、ある程度証明済み。2017年のWBC(ワールドベースボールクラシック)。準決勝の米国戦では8回に1点を奪われ、それが決勝点に。負け投手となった千賀だが、2イニングで5三振を奪い、メジャーの各打者に強烈な印象を植え付けた。当時マーリンズでプレーしていたジャンカルロ・スタントン(ヤンキース)とクリスチャン・イエリッチ(ブルワーズ)からも三振を奪っており、WBCから戻ってきた2人に印象に残った日本人投手の名を尋ねると、真っ先に千賀の名前が返ってきている。そして昨年。東京五輪でも、故障明けながら、米国を相手に好投。2試合で計3イニングを投げて6奪三振。すると改めて彼の存在が、「ゴーストフォーク」という異名とともに、米国の野球ファンに知れ渡った。 千賀は順調なら、今年中に海外FA(フリーエージェント)権を取得するが、前出のスカウトは、「彼が移籍を決断すれば、確実に争奪戦になる」と話し、こう補足した。 「別に驚くことではない。メジャーの各チームは、ずっとマークしてきたのだから」 17年のWBCでも、日本でも千賀と対戦している元オリックスのアダム・ジョーンズは昨年末、大谷の大ファンで知られるFOXスポーツのベン・バーランダーのYouTubeチャンネル「Flippin’ Bats」に出演すると、「日本人投手が投げるフォークは、本当に厄介だった」と振り返った。
そうした中でも大谷と千賀の落ちる球は、他の投手とは回転が異なり、落差も規格外。しかも、他に投げる投手がいない、という点でも共通する。前出のコブも、「トライしたことはある」と言うものの、「ジャイロスプリットは投げようと思って投げられるわけではない」と、その難度を示唆した。 だからこそ、魔球とも呼ばれるのだろうが、大谷のジャイロスプリットが大リーグの打者を圧倒していることで、結果として千賀の市場価値を高めることにもなっているようだ。 (文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)