なぜ大谷翔平のスプリットは打たれないのか…ジャイロ回転とSB千賀の“お化けフォーク“との共通点が判明!
脳科学を野球に活かす取り組みを扱った「ザ・パフォーマンス・コーテックス」という本の中に、なぜ打者は、初対戦の投手に苦労するのか、という考察がある。それを脳科学的なアプローチで解明を試みているわけだが、噛み砕いて説明するため、こんなエピソードを例に引いていた。 2004年、アルバート・プホルス(当時カージナルス)が、アテネ五輪のソフトボールで投手として米国を金メダルに導いたジェニー・フィンチと対戦したが、全盛時のプホルスのバットが、フィンチの球にかすりもしなかったーー。 打者は、無意識のうちに経験値を利用し、軌道を予測。球速そのものは未体験ではないが、下から浮き上がってくる軌道はプホルスにとって初めて。その場合、脳が反応できない。初顔の投手との対戦も同様で、その投手の投げるボールの軌道が平均的なものであるなら手に負えないということはないが、フォームが変則だったり、変化球の軌道が特殊だったりすると打者の脳がバグるーーそんなロジックだった。
大谷が投じていたジャイロスプリット
エンゼルスの大谷翔平のスプリットが昨季大リーガーを圧倒したのも、実は、そんなところに一因がありそう。もちろん、大谷のスプリットは、横の変化量が真っすぐとほとんど変わらず、途中まで軌道が酷似。見分けのつかないことがよりスプリットの効果を高めているが、あの大きな落差こそ、相手にとっては未知の軌道。昨年の落ち方は、18年のそれとも異なった。 実は、アロルディス・チャップマン(ヤンキース)も同じような軌道の球を投げているが、右と左の違いに加え、彼はクローザーであり、そもそも投球全体の10%ぐらいしか投げていないため、打席で目にする機会は少ない。よってなにか策があるとしたら、ひたすら大谷と対戦を重ねるしかない。 ちなみに昨年、2020年と21年の開幕から4月20日までにスプリットを100球以上投げた20投手を調べたところ、他にジャイロスプリットを投げる投手は存在しなかった。20投手で、その間に大リーグで投じられた全スプリットの約72%を占め、残り28%の中にはチャップマンのようなレアケースも含まれるが、昨シーズン、大リーグで投じられた全スプリット(10888球)のうち、大谷のジャイロスプリットは371球であり、約3%。その希少性は疑いがない。