40代に多い乳がん 周囲の人はどうサポートすべきか…言わないほうが良いことも
国立がん研究センター東病院 私のがん診療録
日本人の2人に1人ががんを経験するといわれています。がん患者と向き合う医療者は、日常の診療の中で何を思い、感じているのでしょうか。国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)の医師らが語ります。今回は、女性のがんでもっとも多い乳がんの治療を専門とする乳腺外科長の大西達也さんです。 【写真4枚】体力が落ちたと思ったときに…筋力アップ まずは20秒から
寄り添う家族も支援
40代。働き盛り真っただ中。忍び寄る体力の衰えに気づかぬふりをして、「まだまだこれから」と自分を鼓舞して頑張っています。家に帰ると、家事に子育て。ですが、こちらは妻に任せっきりと反省しています。 乳腺外科医として多くの乳がん患者さんを診療してきましたが、同世代の方も珍しくありません。乳がんの発症リスクは40代後半から増えますが、「40代がこんなに大変だ」とは想像していませんでした。患者さんにも家庭や社会での立場や役割があり、毎日必死で頑張っていると思います。 がんになった不安と戸惑いの中、家庭や職場に病気のことを伝え、そして治療が始まります。乳がんの場合、手術のほかに、抗がん剤やホルモン療法があり、年単位で治療する方も少なくありません。治療による不安やストレスを抱えつつ、家庭と仕事でこれまで通りの役割をこなすことは難しいかもしれません。 がんという病気は突然やって来ます。ご本人はもちろん、家庭や職場の人も「まさか」と思います。支える側も戸惑いは多いとは思いますが、患者さんが安心して治療を受けられるように、患者さんに寄り添っていただけたらと思います。「何から始めたらよいか、わからない」という方も多いでしょう。病院では、ご家族・パートナーの悩みや困りごともうかがっています。院内のスタッフにお気軽にご相談ください。 偉そうなことを書いてしまいましたが、私自身しっかり支えられる自信はありません。妻には言われそうです。「元気なうちからサポートしてほしい!」と。
自分にかける時間はない時期
身近な人が乳がんになったらどう支えればよいのか。大西さんに聞きました。(聞き手・道丸摩耶) ――乳がんには、ほかのがんにはない特有の事情があるのでしょうか。 発症する人が多い40代は、子育てや仕事、介護など様々な状況が重なる時期です。自分にかける時間が少なくなっているところにがんがわかり、治療にも時間をとられることになります。不妊治療をされている患者さんでは、子どもを持つという選択をあきらめないといけないこともあります。 ――どのように寄り添えばよいですか? まずは相手の状態に関心を持つこと、そして病気について知ろうとしてみてはいかがでしょうか。知識を詰め込むのではなく、一緒に学ぶことで相手を理解し、治療の時間をともに過ごす。治療が進むと、薬の副作用で体重が増えたり、ホットフラッシュや急な汗、イライラなど更年期特有の症状が出たりするので、そうした状況にひとつずつ寄り添っていく。体調が悪そうなら、横になれる時間をつくってあげる。マラソンに例えると、「もうすぐ坂道だね」「足元に気をつけて」「あそこに水たまりがあるね」といったことに気づいて指摘をしつつ、一緒に走るということです。 もしかしたらそれは、病気と関係なく普段から大切なことかもしれません。 ――逆に、口出ししないほうが良いことはありますか? 手術を受けるとき、患者さんは乳房を全摘するか、部分切除にするか、手術後に乳房を再建するか、治療方法を選択しないといけないことがあります。乳がんの手術は、なるべく切除部分が少なくなるように進歩してきましたが、状態によっては全摘をした方がいいこともあります。患者さんの希望も聞きながら手術法を決めていくわけですが、周囲の人が治療方針に口をはさむと、患者さんの決断を迷わせてしまうことがあります。もちろん、周りの人に相談をしたい患者さんもおられますので、絶対にやってはいけないということではありません。