「読むとえぐられるマンガは一旦卒業」鳥飼茜の新作は「妊娠・中絶」がテーマでも男女4人の会話劇が心地良い! 参考にした「名作ドラマ」《インタビュー》
「久しぶりにマンガを描くのが楽しいんです」
――4人それぞれタイプが違いすぎて、集まって話し始めると、深刻だったはずなのに脱線して、なんだこれ? ってなる感じがものすごく楽しいです。
鳥飼 ああ、よかった。私も、久しぶりにマンガを描くのが楽しいんです。原稿を描く期間はいつもげっそりしているんだけど、今作は「もっと変な表情にしてみようかな」「だらけた姿勢でしゃべらせたほうがいいんじゃないかな」って細部の思いつきがどんどん生まれてくる。コーンスープ缶の残りをこんこんって叩いて出しながらしゃべっていたほうがこのキャラらしいんじゃないのかな、とか。 ――つじつまが合っていない感じも含めて、みんな、人間らしいですよね。鳥飼さんが楽しんでいるからこそ、読んでいるこちらも楽しいのかもしれない。 鳥飼 アマネだけはどうしても、背負わせているものが重いから、深刻になってしまいますけどね。しんどい思いをさせているけど、頑張ってほしいなあ、と思いながら描いています。若い女の子が未来を生きるための選択肢をこれ以上減らさないでほしい、っていう気持ちは強くあるので、それが物語ににじんで、読者の方にも伝わればいいな、と。そうしてみんなが自分事として考えることができれば、世の中も変わっていくかもしれないですし。 ――妊娠中絶というテーマに改めて向き合って、ご自身はどんなふうに感じていらっしゃいますか。 鳥飼 資料をいろいろ調べていく中で、古川雅子さんという方が書いた「経口中絶薬に関する3回連載」を読んだんですよ(※記事は今年、科学ジャーナリスト賞を受賞)。解禁に至るまでどんなドラマがあったのか、読み物としておもしろいんですけど、妊娠中絶は私の権利であって、全女性の権利でもあるのに、ずいぶんと遠いところですべてが決まってしまうんだなあ、とおそろしさも感じました。うかうか生きていると、知らないうちに社会の構造に飲み込まれて、流されてしまうんだな、と。意識しなければ絶対に知ることのできない大事なことが世の中にはたくさんある。だから、政治のこともちゃんと考えなくてはいけないということは、今後の物語でも描いていきたいと思っています。そこは、ゆるふわコメディではきかなくなってくる部分だろうから、緊張はしますけどね。 ――それは、これまでみんなが目をそらしがちなテーマに、真正面から挑んできた鳥飼さんだからこそ描けることだと思います。読み心地は軽いけど、扱いは軽くない。ちゃんと奥があるし、一つひとつの描写に「あ!」と気づかされるし、考えさせられるんです。 鳥飼 ありがとうございます。レディースクリニックの医師が「経口中絶薬があるからって軽々しく性行為しないでくださいね」みたいなことを言ってきたり、「は?」って思うことって世の中にたくさんあるじゃないですか。一つひとつ許してはいけないことかもしれないし、私はいちいち怒るタイプではあるんだけれど、でもその怒りだけに人生を費やしていたら、疲弊してしまう。キリがないんですよね。その重さを背負いながらも明るく生きる道を模索する姿を私は描きたいし、自分も明るくありたいと思うんです。
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