「読むとえぐられるマンガは一旦卒業」鳥飼茜の新作は「妊娠・中絶」がテーマでも男女4人の会話劇が心地良い! 参考にした「名作ドラマ」《インタビュー》
フェミニズムの問題を我が事としてとらえてくれる男性は、ファンタジーだと思って描けなかった
――妊娠したかもって報告に元カレが「大丈夫そ?」とだけ連絡してきたり、ちょいちょい、「なんだこいつ、クソか」みたいな描写があるじゃないですか。それを、怒らないわけじゃないんですよね。「は? ふざけんな」とキレながら前に進む。その姿に、読み手も力をもらえると思います。 鳥飼 よかった。私もプライベートで、男性の当事者意識の低さに怒ったことは多々ありますけど、たぶん妊娠出産に関しては「(男性側は)どうしたって自分には理解できない」と線を引いてしまっている部分も大きいと思うんですよね。「自分にできるのはお金を出すことだけ」って割り切ってしまっているというか。それは決して間違っていないんだけど、それだけではどうにもならないこともたくさんある。 ――女性側が「どうせわからない」と最初からあきらめてしまっている部分もあるなと、本作を読んで思いました。言っていれば、何か変わったかもしれないのに、と。 鳥飼 若い女性がひとりで出産して公園に赤ん坊を捨ててしまった、みたいな痛ましいニュースが流れると、「父親は何をしてるんだ」って意見が出てくるけれど、その人にとっては、自分の現実に父親である男性が介入してこないほうがラクだったんだろうな、と思ったりもします。自分ひとりで処理してしまったほうが最小限でおさめられる、と。その判断には、私も身に覚えがある。そんな自分に対するほのかな怒りもあるかもしれません。難しいですよね。「言えばいいのに」という正論もあるけど「言えない事情があることもわかれ」という気持ちもある。命を寿ぐ気持ちと邪魔に思う気持ち、その矛盾と同じように、相反するいろんな感情をどう按分すればうまく事が運ぶのか、マンガを描きながら試しているところも、ある気がします。 ――ああ、だから……今作は、けっこう男性陣が重要な役割を担っているなと感じていて。女性だけが頑張らなきゃいけないわけじゃない、というのも「軽さ」のポイントだった気がします。 鳥飼 そこはちょっとファンタジーというか。これまでは、なかなか描けなかった部分なんですよ。男性がフェミニズムの問題を我が事としてとらえてくれる、一緒に向き合ってくれることなんて、現実にはなかなかないから、物語で描いてしまったあと現実に戻り、悲しくなってしまうのがいやだった。叶わないことは描きたくないって思っていたんです。でも……話を聞いてくれる、欲しい言葉を投げかけてくれる、そういう男性の理想像を描いてもいいんじゃないかな、絶対にありえないとはいえないギリギリのところを、楽しく描いてみたいなと今は思っています。だからテーマは重いけど、みなさんにもライトに楽しんでほしいなと思います。
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