子どもはできたのに離婚も……不妊治療をめぐるズレ、当事者の声から
夫の協力があったことで、前向きに治療に取り組めた
実際に話し合いを重ねたことで、良好な夫婦関係を保てたケースもある。 国家公務員の山中登さん(仮名・30代)夫妻は顕微授精で2人の子どもを授かった。 「妻に不妊の原因があると決めつけず、自分が原因の可能性もあるという前提で話し合いをしていたんです。スケジュールや治療法など、妻がやりたいようにできるように努めました。『お金は一切心配しなくていい』とも伝えていました」 1年半のタイミング法の末、体外受精へと進む際には意図的に会話を増やした。特に金銭面や治療期間は念入りにすり合わせたという。できるだけ妻の負担を減らすことを意識した、と山中さんは回顧する。 山中さんの妻は、そんな夫の振る舞いをこう評価する。 「興味がなかっただけかもしれませんが、どのように、どのタイミングでステップアップするかの判断は私に任せてくれた。人工授精を早々に諦め、体外受精にすぐ進めたことも含めて、スケジュール調整に協力的なことが一番助かりました。2人目のときも、来院日、採卵日など直前にしかわからない予定に合わせて長男の面倒を見たり、気分転換も兼ねて、2人で行きたかったシンガポール旅行にも連れていってくれたりした。全く不満がないといえば嘘になりますが、夫の協力があったことで、前向きに治療に取り組めたことには感謝しています」 妊娠はひとりではできない。そんな当たり前のことを改めて考える必要があるのではないだろうか。 --- 栗田シメイ(くりた・しめい) 1987年、兵庫県生まれ。広告代理店勤務、ノンフィクション作家への師事、週刊誌記者などを経てフリーランスに。スポーツや経済、事件、政治、海外情勢などを幅広く取材し、主に雑誌やwebを中心に寄稿する。著書に『コロナ禍の生き抜く タクシー業界サバイバル』(扶桑社新書)。『甲子園を目指せ! 進学校野球部の飽くなき挑戦』など、構成本も多数。