子どもはできたのに離婚も……不妊治療をめぐるズレ、当事者の声から
高村さんの夫はテレビ局の報道記者だ。不妊治療を始めて1年だが、夫は精液検査も含めて一度も病院に付き添ったことはない。治療費以外の具体的な問いかけもほとんどない。多忙な夫の重荷になることを嫌い、「もっと協力してほしい」とはどうしても言いだせない高村さん。だがパートナーなのだから、察してもいいのではないか、と思っている。 「夫は本当に何もしません。2人のための子作りなのに、私との温度差がありすぎる。でも、たまに掃除や洗濯物、ゴミ出しなどをすると自分はやった、という顔をしているから余計に腹が立つんです。受精卵のエコーを見せて『グロいね』と言われたときは、さすがに我慢できなくて怒りましたよ。男性不妊とは、男性側に妊娠できない原因があること全般を指す言葉だと思いますが、協力的ではない時点で男性不妊といえるのではないでしょうか」
「不妊治療で夫に何ができるのかわかりません」
「あんたはただ精子を出すだけ。私は不妊治療で仕事もプライベートな時間も制限される。これだけ苦しい思いをしているのに、なんで協力してくれないの……」 安田大貴さん(仮名・40代)は妻から投げつけられたこの激しい言葉を今も覚えている。結婚して6年、不妊治療を開始して2年が経つ。これまで3度顕微授精を試み、費やした金額も既に200万円を超える。 しかし安田さんは、どこか他人事のように感じていた。 「妻には申し訳ないけど、不妊治療で夫側に何ができるかというと、今でもわかりません」 不妊治療の初診の精液検査で、医師から「旦那さんの精子では自然妊娠できる可能性が極めて低い」と告げられた。精子の活動量、濃度ともに基準の数値をはるかに下回っていたのだ。医師からはタバコや酒を極力控えるように求められ、妻からも「不妊治療中だけでも我慢してほしい」と懇願された。
しかし、安田さんは変わらなかった。酒の席が好きで、重度のヘビースモーカー。長年染みついた不摂生な生活の癖は抜けなかった。精液採取の日に仕事の付き合いで朝帰りしたとき、妻は溜め込んだ怒りを爆発させた。 「あまりに不公平だ。私は通院に合わせて半休を取り、付き合いも我慢している。多くを犠牲にして治療に臨んでいるのに、あなたはタバコや酒すらやめられないの」 妻からは「本当に子どもが欲しいのか」と何度も問いただされた。安田さんは、頭では理解していたが、なかなか行動に移せなかった、と悔やむ。 「妻の主張のほうが100%正しいのは理解しています。ただ、意志が弱く『我慢したところでそんなに変わらないだろう』という考えが根底にあり、酒やタバコを含むこれまでの生活リズムを変えられなかった」 3度目の顕微授精を最後に、不妊治療はストップ。妻がホルモン注射の痛み、通院のストレスに耐えられず、「もう治療をやめたい」と告げたからだ。現在は月に1度タイミング法(妊娠しやすい最適な日時に性交渉を持つタイミングを、医師が指導するもの)を試みているが、結果は出ていない。それでも、やはり子どもは欲しいという。 「ウチの場合は不妊の原因が自分にあるので、治療を続けてほしいというのを妻に言いにくかった。4月からの保険適用はきっかけになると思います。今度こそ自分の生活を改善して、『もう一度頑張ってほしい』と妻に話すつもりです」