巨人が「昭和の大企業」だとしたら、大谷翔平は「シリコンバレーの起業家」 契約金総額1015億円はグローバル資本主義がたどり着いた極致か
大谷翔平の社会学 #1
かつて日本球界を代表する「金満球団」だった読売ジャイアンツの、2023年における選手年俸総額は約37億円。大谷翔平の推定年棒、約101億5000万円に遠く及ばない数字だ。衰退を続ける日本において大谷翔平の神格化は必然的なものだった。 【写真】2006年のWBCで監督を務めた王貞治 書籍『大谷翔平の社会学』より一部抜粋・再構成し、なぜ日本人がこれほどまでに大谷翔平に熱狂するのかを解説する。
「大谷教」の信者たち
大谷が投手として15勝、打者として34本塁打という超人的な活躍を見せた2022年、日本球界では東京ヤクルトスワローズの若き主砲、村上宗隆が王貞治の記録を超えるシーズン56本塁打を放った。 日本プロ野球(NPB)史上最年少で三冠王に輝いた村上は、その神がかり的な打棒を称えるファンやメディアに「村神様」と呼ばれた。はるか昔から「八百万の神」が存在する超多神教の国、日本では野球選手もたやすく「神」になる。 さて、日本で本塁打記録を打ち立てた村上が「神」ならば、アメリカでMVPをすでに2度、いずれも満票で受賞している大谷は「神々のなかの神」とでも言うべき存在だろう。 2018年に大谷がロサンゼルス・エンゼルスの選手としてプレーするようになってから、日本でエンゼルスの試合が毎日テレビ中継されるようになっただけでなく、本拠地のエンゼル・スタジアムまで足を運ぶ日本人が続出した。 米国在住者はもちろん、日本から飛行機ではるばる訪れる人も後を絶たなかった。大谷が日本人にとって「神」だとしたら、エンゼル・スタジアムは「聖地」だった。 まるでイスラム教徒がサウジアラビアのメッカに「聖地巡礼の旅」へ出かけるように、「大谷教」の信者である日本人はエンゼル・スタジアムへと足を運んだ。 大谷翔平という「神」を崇拝しに……。 そして2024年からはもちろん、新天地のドジャー・スタジアムが新たな「聖地」になる。 連日のように日本のテレビに映る大谷は、今や日本一の有名人だ。しかしアメリカでプレーする大谷の姿を実際に、自分自身の目で見たことがある人はどれくらいいるのだろうか? 僕を含めて多くの人は、テレビの中継映像やインターネットのニュースで大谷を見ているだけだ。メディアに映る姿を見て、大谷翔平という人間がこの世に存在していると「信じている」にすぎない。 だからこそ僕らは勝手に想像を膨らませて、大谷翔平という存在に「神話性」を付与しているとも言える。 ある物語が神話性を帯びるためには、多くの人々が「共同幻想」を抱くことが条件となる。たとえば「国家」や「宗教」はいずれも共同幻想の産物だ。 国家や宗教は目に見えるものではないが、それゆえに「国の成り立ち」や「信仰のはじまり」といった物語を通じて人々にその存在を信じさせる。 そして今日、物語を流布するのはメディアの仕事だ。たとえば「悪の帝国ロシアと戦うウクライナ」といったシンプルでわかりやすい物語を人々に信じ込ませることによって、メディアの商売は成り立っている。 「日本の誇り、大谷翔平」もそんな物語のひとつで、現在、日本で最も人気のある物語と言えよう。あるいは最も信奉者の多い神話、と言って良いかもしれない。メディアが繰り返す物語を通じて大谷は「神」になったのだ。