10月1日からノーベル賞発表 日本人の受賞は? 日本科学未来館が予想
10月1日から、いよいよノーベル賞の発表が始まる。初日の生理学・医学賞に続き、2日に物理学賞、3日に化学賞と自然科学3賞が3夜連続で発表され、1日空けて5日に平和賞、週明け8日に経済学賞と続く(今年は文学賞の発表はない)。 【図】ノーベル賞「生理学・医学賞」2018年は誰の手に? 日本科学未来館が予想 日本科学未来館では、2012年から自然科学3賞の「ノーベル賞」を予想している。知名度の高いノーベル賞をきっかけに、科学技術に関心を持ってもらうのが目的だ。2016年まで3年連続で日本人研究者が受賞したこともあり、この活動はメディアから取材を受けることも増え、年々ノーベル賞への関心の高まりを感じている。 では、さっそく未来館の予想をお伝えしよう。今年は生理学・医学賞で3つ、物理学賞が2つ、化学賞は3つの研究の概要を取り上げた。研究についての詳細については、同僚の科学コミュニケーターたちが順次、記事を公開していくので、そちらに譲りたい。未来館の科学コミュニケーターブログでも紹介しているので、ご一読いただければ幸いだ。
【生理学・医学賞】10月1日(月)18時30分~(日本時間)
■腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)の生理的・機能的な研究 ジェフリー・ゴードン(Jeffrey I. Gordon)博士 ■適応免疫に必須なリンパ球と器官の発見 ジャック・ミラー(Jacques F. A. P. Miller)博士/マックス・クーパー(Max D. Cooper)博士 ■細胞の栄養状態のセンサーであるmTORの発見 マイケル・ホール(Michael N. Hall)博士/スチュアート・シュライバー(Stuart L. Schreiber)博士/デイビッド・サバティーニ(David M. Sabatini)博士 研究テーマで扱っているサイズが“3つのレベル”になっている点にお気づきだろうか。研究対象のサイズが大きい順に、腸内細菌叢は「個人とその周辺」、適応免疫は「人体の中の組織」と細胞、mTORは「細胞の中の分子(タンパク質)」の話だ。レベルは3段階だが、実はどれも「ネットワーク」を扱っているという共通点がある。 博物学から始まった生物学は、20世紀に入ると細胞や分子レベルの研究が進み、還元論的な手法での研究が進んだ。ほかの自然科学と同様、還元論的なアプローチは生命の理解にも大いに威力を発揮したが、1つの遺伝子を理解すれば1つの生命現象が分かる、というほど単純ではなかった。1種類の分子や細胞に働きかける分子・細胞は1種類ではないし、その分子や細胞が次に働きかける相手もまた1種類ではない。現在の生命科学は、複雑なネットワークを、ネットワークとして理解しようとする研究が当たり前のように進んでいる。 腸内細菌と私たちの健康との関わりは、古くから研究が試みられてきたが、以前は個々の菌を培養皿で増やして個別に解析しようとしていた。腸内細菌を身体の外で増やすのは難しい上に、個々の菌を調べても全体の中でのバランスなどは分からなかった。今は、腸内にすむ多種多様な菌を、その数のバランスとともに丸ごと理解しようとしている。その解析手法を考案したのが、「腸内細菌叢」研究のゴードン博士だ。 次に「適応免疫」の研究について。私たちを感染症やがんなどから守ってくれる免疫系は、数多くの細胞や分子が登場する、まさにネットワークだ。今年、未来館で選んだテーマは、「まだ受賞していなかったの?」という声が出たほど基盤的な研究。近年、アレルギーに深く関わる制御性T細胞やがんの免疫チェックポイントなどで大きな成果が上がっており、日本人研究者が関わっていることもあって注目度が高い。過去に未来館でも予想に挙げている。だが、ノーベル賞はその分野の先駆者に贈られる傾向があり、今年はミラー、クーパー両博士を選んだ。 最後の「mTOR」とは細胞の中にある分子の名前で、酵母でTORを、哺乳類でmTORを発見したホール、シュライバー、サバチェーニの3氏々を受賞者として予想した。細胞は、栄養状態が良ければ成長したりや分裂したりするが、飢餓状態では細胞内にあるものを分解・リサイクルするオートファジーの仕組みが活発になる。この栄養状態に応じた細胞のふるまいを調節しているのが、mTORを中心とした細胞内の分子ネットワークの働きだ。mTORは近年では、がんや老化との関わりも研究もされ、非常に注目されている分子だ。