「タンタンが嫌がることは、絶対しない」…パンダのタンタンと飼育員さんたちの、知られざる絆
2024年3月31日に多くの人に見守られながら28年の長い生涯に幕を下ろしたタンタン。神戸市立王子動物園で暮らしていたパンダのタンタンは、短い手足にモフモフとした毛並みがぬいぐるみのようにかわいらしく、“神戸のお嬢さま”と呼ばれ、多くの人に愛され続けています。 【写真】「隠し撮りがバレました…」パンダと飼育員さんの微笑ましすぎるやりとり NHK「ごろごろパンダ日記」の番組プロデューサー・杉浦大悟氏は、タンタンと、飼育員の梅元さん、吉田さんの日々を見つめてきました。そんな杉浦氏がタンタンの“パン生”を辿り、執筆したのが『パンダのタンタン 二人の飼育員との約束』という本。 心臓の病が発覚し、症状を抑えるための薬を服用することになったタンタン。しかし、予期せぬ問題が立ちはだかりました。第三回【病気が発覚し、やせ細ってしまったタンタンに「どうにか薬を飲んでほしい」…飼育員さんたちの強い願い】に引き続き、タンタンと飼育員さんの日々をお届けします。
薬を拒絶し続けるタンタン
5月に入ると早くも気温が25℃を超える日もあり、季節は夏へと変わろうとしていた。でもパンダ舎では依然として、タンタンが薬を拒絶する日々を抜け出せずにいる。 そんなある日、観覧者のいない園内を歩く吉田の姿があった。12年間、こつこつ積み重ねてきたタンタンの好みに関する記憶をさかのぼるうち、ふとあるものを思い出したのだ。 「ちょっと、お願いがあるんやけど」 訪ねた先はなぜかゾウ舎。王子動物園には2頭のアジアゾウが暮らしている。やんちゃな性格の雄のマックと、優しくて甘えん坊な雌のズゼ。いつもズゼのことを気遣うマックの姿が話題となり、2頭はタンタンと並んで王子動物園の人気者となっている。 でも、ゾウが普段食べているのは青草とかカボチャのはず。タンタンの薬を隠せるようなものは思い当たらないが……。 「これやろ」ゾウの飼育員が、黄色くて長い節だらけの棒を手渡した。これは砂糖の原料としても使われるサトウキビ。マックもズゼも甘いサトウキビが大好物なのだ。