火山のリスクヘッジ! 2014年御嶽山の噴火現場から命からがら生還した登山者の証言とは
絶体絶命からの生還
「これまで、山で死なないために経験を積み、技術や知識を身につけてきたのに、噴火に遭うとは……。滑落でもなく、雪崩でもなく、落石でもなく、登攀中の墜落でもなく、想定外の噴火で絶体絶命に追い込まれた。過去に噴火した火山に登っていながら、噴火を想定外にしていた自分の危険に対する甘さがたまらなく悔しかった。 まわりに小屋もなければ、助けてくれる人もいない。この状況がいつまで続くのかわからないけれど、噴石に当たったり、有毒ガスに巻かれない限り、水と食糧、手持ちの装備で数日間はしのげるはずだ。そんなことを思っているうちに3回目の爆発が起きました」(小川さん)
巨大な噴石が飛び交う地獄絵図
「ドッカーンというすさまじい爆発音がして、かなり近い感じ。時折ぼんやりと視界が開けると、灰色の中をかなりの数の噴石が飛び交い、明らかにサイズが大きくなっていました。それを目にして笑いがとまらなくなったんです。恐怖に飲み込まれたんだと思います。 そんな中で、じたばたしても自然には逆らえない、なるようにしかならないと思いました。 最初の噴煙を見てから約1時間後。風が吹き込み、視界が開けたのですが、そこで目に映った光景には思わず息を呑みました。見渡す限りすべて真っ黒。まったく色のない世界になっていたんです。そしてとても静かでした」(小川さん) その後、まだ噴火が続く可能性もある中、視界が戻った機をとらえ、最短距離ながら、途中身を隠すものが何もない一ノ池を突っ切って逃げる決断をした小川さん。結果的に、自力で生還することができたのです。
10年が経過し、今思うことは?
「絶対に噴火で死にたくなければ、火山に登らない選択しかありません」 噴火の可能性がある活火山に敢えて登るのであれば、それに備えた準備が必要です。それは、事前にその火山の活動状況を確認すること、もしも登山中に噴火が起きたらどう避難するのか、シェルターの位置や火口と登山道の位置関係を頭に入れておくこと。 安全対策のシェルターや情報提供があることは、安心ではありますが、安全とは違います。そのことは肝に銘じておかなければなりません。 そして、装備。日帰りであってもヘッドライト・防寒着・雨具、ツエルト(レスキューシート)そして少し多めの食料と水を持つことです。自力で歩けないようなケガをしたとき、救助されるまでに時間がかかることも考えられます。季節によっては保温が出来なければ低体温症で命を落とす可能性があります。これは火山だけではなく、どの山でも同じことです。 幸い私は、それまでの登山経験によって、ぎりぎりのところで命を守る行動ができたと思っています。もちろん運・不運はありますが、準備、装備、経験、そして危険に対する意識を持つことによってリスクを減らすことはできると思います。 絶対的な安全というものはない、自然相手の活動が登山なのだから、やるべきことをやった上で臨み、突然の噴火に遭遇したとしても、起こる全てを受け入れるしかないのではないでしょうか。それが自由に登りたい山に登ることと引き換えの、登山者の責任ではないでしょうか」と小川さん。 登山者のための火山のリスクヘッジ【現在日本にある火山と登山リスク編】、【活火山に登るための計画とは】、【噴火リスクがある山へ登るときの準備と対策とは】で、及川先生も強調されていたように、登山者自身がリスクを減らす行動を取ることが大切ということですね。油断することなく、これからも火山とどう付き合っていけばよいか考えていきたいと思います。
根岸真理