迫る決断の時…香川真司の新天地はどうなる?!
2012-13シーズンを最後に遠ざかっている1部昇格への案内人になる期待を背負って、香川は昨夏に独ブンデスリーガ1部の強豪ボルシア・ドルトムントから加入した。しかし、けがなどもあってシーズンを通して安定したパフォーマンスを発揮できず、サラゴサも3位で自動昇格を逃した。 迎えた昇格プレーオフ準決勝では、6位のエルチェに2戦合計スコア0-1でまさかの敗退。香川自身は存在感を示したものの、レギュラーシーズンにおける31試合出場、4ゴール1アシストという数字は貴重なEU圏外選手枠のひとつをあてる助っ人としても、そして日本代表でも豊富な経験を誇るはずの31歳のベテランとしても、周囲には物足りなく映ったのだろう。 EU圏外選手枠との関係もあって、サラゴサ側はシーズンが始動した段階で香川を戦力外として位置づけた。ただ、香川としてもスペインの舞台でプレーすることはかねてからの悲願であり、サラゴサでの1部昇格を念頭に置いて、中東のクラブから届いた、移籍金が170万ユーロ(約2億1000万円)に達するオファーに断りを入れたとスペイン国内のメディアで報じられた。 ドルトムントで実質的な戦力外となっていた2018-19シーズン。最終的には冬の移籍市場でトルコのベシクタシュへ期限付き移籍した香川は、ウインターブレークで一時帰国した際には何かが吹っ切れたような表情を浮かべながら、スペインへ抱いてきた憧憬の念を堂々と口にしている。 「自分が生き生きとして、より自我を強調できるプレーに次の移籍先でトライしたい。そのために常々動いているけど、そんなに簡単にいくとは思っていないし、これほど移籍が難しいものかと僕自身も肌で感じている。100%とは言い切れないですけど、そこ(スペイン)を中心に探しています」
スペインにこだわる香川の意向に沿う形で進められた、同じ2部を戦うログロニェスとのクラブ間交渉が一時は合意に達したという。しかし、今シーズンにセグンダ・ディビシオンBから昇格してきた状況に懸念を抱いたのか。来シーズンに1部の舞台でプレーできる可能性を重視する香川サイドが、ログロニェスへの移籍を断ったとスペイン国内のメディアでは報じられている。 スペインの移籍期間は来月5日まで開いていて、各クラブは上限が定められている人件費の総額内で最後の補強策を講じている。サラゴサも例外ではなく、年俸が55万ユーロ(約6800万円)とされる香川の移籍で生じる枠を生かし、バラハ監督が望むサイドアタッカーの獲得を思い描いている。 ここにきて今シーズンの年俸を向こう3年間にわたって支払うことで、契約を解除したいとサラゴサ側が申し出たとスポーツ紙の『アス』などが報じた。本来ならば発生する移籍金を受け取らないどころか、逆に年俸分を負担してでも香川を放出したいという意思が示されたことになる。 現地時間28日にはFW指宿洋史(現湘南ベルマーレ)、MF田邉草民(現アビスパ福岡)が過去に所属したサバデルが、移籍先の新たな候補として報じられた。しかしながら、この場合もログロニェスと同じく、セグンダ・ディビシオンBからの昇格組である点が懸念材料になるだろう。 しかし、香川としても現状のままでは公式戦のピッチに立つことができない。選手寿命を考えれば致命的なブランクとなりかねないだけに、サラゴサ側の提案を受諾して所属クラブなしの状態となり、移籍期間を気にすることなく、なおかつ移籍金が発生しない状態で新天地を探す道を選ぶ可能性もある。スペインメディアは現地時間29日に、サラゴサと香川の代理人が会談する予定だと報じた。 フリーの状態になるにしても、スペインでのプレー継続を望む場合にはEU圏外選手枠の存在が重くのしかかってくる。1部はもちろんのこと、2部でも昇格を狙う有力クラブのほとんどで枠がすでに埋まっている。サラゴサでプレーした昨シーズンで期待外れのイメージを色濃く与えてしまったいま、日本代表の「10番」を背負い続けた男の視界に映る選択肢は、極めて限られてくるかもしれない。 (文責・藤江直人/スポーツライター)