衛星通信スターリンクが電波天文学の邪魔に、第2世代衛星の電磁放射は第1世代の32倍
天文学は、人類にGPS(全地球測位システム)、Wi-Fi、医療画像診断技術などの恩恵をもたらした。しかし、小型人工衛星を多数連結したメガコンステレーションが今後も打ち上げ続けられれば、宇宙探査の成果が私たちの日常生活に還元される波及効果は期待できなくなるおそれが高い。 【画像】宇宙から届く微弱な電波をとらえて天体を観測する電波望遠鏡とスターリンクの受信機 電波天文学者による最新の研究で、米民間宇宙企業スペースXの第2世代スターリンク衛星は、電波干渉を引き起こす電磁放射の強度が第1世代の32倍に上ることが明らかになった。 ■見える星座が「人工衛星だけ」に? スペースXが運用するスターリンクは、低軌道衛星を用いてブロードバンド接続を提供するサービスだ。天文学・天体物理学分野の学術誌Astronomy & Astrophysicsに9月に掲載された論文によれば、研究チームは欧州各地にアンテナ基地局をもつ電波望遠鏡「LOFAR(LOw Frequency ARray、低周波電波干渉計)」を使って観測を行った。LOFARは、地上から最も低い周波数で観測が可能な稼働中の電波望遠鏡として世界最大を誇る。 LOFARを運用するオランダ電波天文学研究所(ASTRON)の所長で科学ディレクターのジェシカ・デンプシー教授は「対策を講じなければ、あっという間に私たちに見える星座は人工衛星だけになってしまう」と危機感を表明。「宇宙で共生するための解決策はある。必要なのは、規制当局の支援と業界の歩み寄りに尽きる」と語った。 ■天体より「1000万倍明るい」スターリンク衛星 この研究結果によると、第1世代のスターリンク衛星からも天文観測を妨害するおそれのある電磁波が漏れ出ていたが、第2世代の「V2 Mini」衛星は、はるかに強力な「意図しない電磁放射(UEMR、unintended electromagnetic radiation)」を発生させている。 論文の筆頭著者を務めたASTRONのキース・バッサは、「LOFARで観測している最も暗い天体物理学的対象と比較すると、スターリンク衛星のUEMRは1000万倍明るい」と指摘。「これは肉眼で見える最も暗い星と、満月の明るさの違いに相当する。スペースXは毎週約40基の第2世代スターリンク衛星を打ち上げているため、問題はますます深刻化している」と述べている。