「どれだけお金ないのよ」と驚きの声 トイレ改修できず、“洋式待ち渋滞”が起きる国立大学の限界
プライド捨て「もう限界です」
国立大学は国から多額のお金が投じられているから、巨大な施設に最新の設備が並んでいるのだろう。そんなイメージを持つ人が多いかもしれません。しかし、20年前から全国各地の国立大学を取材してきた私のイメージは、その逆です。 金沢大学のようなトイレ、あるいは学生食堂、体育館といった施設に限りません。実験・研究施設なども、昭和の頃から使っている老朽化したものが目立ち、「安全性は大丈夫かな」と心配になることもあります。だれもが知る難関国立大学の学長室が、年季の入った貧相な建物にあり、切ない気持ちになったこともあります。 24年6月、そんな国立大学の現状を伝える象徴的な出来事がありました。全国の国立大学でつくる国立大学協会が、「財務状況がもう限界です」と異例の声明を発表したのです。 国立大学は04年に国立大学法人になって以降、教職員の人件費などに充てる国からの運営費交付金が減らされました。人件費や研究費などの支出を減らして何とか持ちこたえていましたが、物価や光熱費の高騰で支出が急増し、ついに悲鳴を上げたのです。 「恥ずかしい」「格好悪い」などと異を唱える学長もいたそうです。しかし、財務省の財布のひもを緩めるには、国民に実情を訴えて政府に圧力をかけてもらう必要があると、会長を務める永田恭介・筑波大学長が押し通したとのことです。国立大学の経営は、プライドなどと言っていられない厳しい状態に陥っていることが、よくわかるエピソードです。 国立大学は、私立大学より学費が安いところが大きな魅力です。東京大学など一部の大学は値上げに踏み切りましたが、大半はこの20年間、授業料を年53万5800円のまま変えていません。私立大学の授業料がこの間に平均で82万円から96万円に上昇したのと対照的です。国立大学の授業料は、標準額の1.2倍まで各大学の判断で値上げできるのですが、「全国どこでも質の高い高等教育を比較的安く提供する」という国立大学の使命を果たそうと踏ん張ってきました。財務状況が悪化した背景には、こうした事情もあるのです。 それでは、国立大学は「安かろう、悪かろう」なのでしょうか。そんなことはありません。老朽化した施設や設備が多いとはいえ、教育・研究環境はやはり充実しています。 学生1人当たりの国などからの公財政支出額をみると、私立大学は年18万円ですが、国立大学は約13倍の229万円に達します。それに加えて、きめ細かな教育の指標となる「教員1人当たりの学生数」は、私立大学の半分程度です。かつては、「国立大学の教員は研究ばかりしていて、教育や学生支援が後回しになっている」と批判されました。しかし、法人化を機に、そうしたマイナス面も改善されつつあります。 新しさやオシャレさでは、私立大学にかなわないかもしれません。それでも、安い学費で少人数授業が多いので、学ぶうえでのコスパでみれば、国立大学に軍配が上がります。