「どれだけお金ないのよ」と驚きの声 トイレ改修できず、“洋式待ち渋滞”が起きる国立大学の限界
2004年に国立大学が法人化されて今年で20年。この間に国からの運営費交付金が減らされ、国立大学の運営は危機的状況にあると言われています。その実情とは、どのようなものなのでしょうか。24年11月発売の朝日新書『限界の国立大学 法人化20年、何が最高学府を劣化させるのか?』(朝日新聞「国立大の悲鳴」取材班著)から、一部を抜粋して紹介します。また、取材班の増谷文生・朝日新聞論説委員が取材を振り返り、国立大学の財政状況について問題点を指摘します。(写真=金沢大学、2023年、撮影:朝日新聞社・朝倉義統) 【写真】「もう限界です」と危機的な財務状況を訴える国立大学協会の声明 金沢大学の学生一人ひとりが安心して使えるトイレを、少しでも増やしたい――。金沢大学は23年秋、キャンパス内のトイレを改修する費用を集めるためとして、クラウドファンディングを行った。 同大が、金沢市中心部から、郊外の山あいの現在地に移転して30年余り。一気に改修時期を迎えたトイレの便器は当時、約300あった。 たかがトイレと思うなかれ。この30年で大きく増えた女子学生にとっては、特に譲れない問題だという。同大では数多く設置されている和式は敬遠され、「洋式待ち渋滞」が発生。「休み時間にトイレに行けない」といった不満も寄せられ、大学としても放置できない状況になっていた。 だが、ウクライナ危機が続き、コロナ禍が明けたタイミングで、電気代や物価などが高騰していた。運営費交付金が抑制されるなか、乏しい自己資金だけで細々と改修していては、長い時間がかかってしまう。そこで学内外から寄付を集め、便器の洋式化や、床面の塗り替えなどの改修を前倒しすることにしたという。 目標額は300万円。本当に寄付が集まるのか、ふたを開けてみなければわからなかったが、わずか2カ月間で355万円も集まった。大学側の思惑以上の成果があがったという。一方で、金沢大学といえば、規模や研究成果などをみれば、「地方大学の雄」ともいうべき存在だ。ネット上では「どれだけお金ないのよ……」などと驚きの声が広がった。 国立大学では今、いささか切なさを感じるこうした事例が、各地で起きている。 朝日新聞が24年1~2月に、国立大学の法人化20年を機に実施したアンケートには、全国の学長や教職員から、「予算が足りずに学生の教育・研究環境に悪影響が出ている」と訴える声が続々と寄せられた。ふだん取材している私たちでも、「ここまでひどいのか」と驚くような、具体的な窮状を紹介するコメントも数多く届いた。 法人化された04年度の運営費交付金は、前年度まで国立大学のために使われていた予算とほぼ同額の1兆2415億円が配られた。だが、翌05年度からは約10年間にわたり、毎年1%ずつ減らされ続けた。 (以上、『限界の国立大学』から抜粋)