日本の木造モダニズムの先駆けにして、都市型小住宅の原型。〈土浦亀城邸〉が現代に甦るまで。
復原・移築を手がけるにあたり、安田さんが最も注力したのは、建築家としての土浦の「心を読む」こと。プロジェクトには、東京工業大学の山﨑鯛介氏や長沼徹氏ら歴史考証の専門家も加わり、内壁を1層づつ削ってオリジナルの塗装を突き止めるなど、丁寧な検証や「裏取り」が繰り返されたが、どうしても「解らない」部分が出てくることも。 「そういうときは、元の建物ととともに、建築家の心を読まなければいけない。土浦だったらどうしただろう、と本人の気持ちになって、検証では答えが出せない部分を埋めていくことが、難しさであり面白さでもありました。書物を読み込んだり、周辺にいた人たちへの聞き取りをしたり。極端な言い方をすると、役者が役の人になりきるような、そういう感覚に近いかもしれません」
「考え続け、悩み続けたところは多々ありますが、ひとつ、印象に残っているのは、吹き抜けの居間の天井面が、移築前の状態では2階の寝室の鴨居よりも下がっていたんですよね。寝室から、天井面の小口が見えていた。通常の“保存”だったら、現状のまま、下がったままにするのでしょう。でも、建築家だったら、こんなにも理想を追求した土浦亀城だったら、絶対に面は揃えるはず。諦めずに調査を重ねたら、天井のたわみが原因で下がっていたことがわかり、結果的に面を揃えて上げました」 そうして現代に蘇った〈土浦亀城邸〉は、眩いばかりの輝きで、住むことへの喜びがひしひしと伝わってくる。 「夢がありますよね。個人的には、90年近く前に建った住宅が、今のモダニズムより良かった、ということに、悔しさを感じるほどです。この家が、1935年の日本に建ち上がったことの凄さを改めて感じてもらいたい、と最初に言いましたが、現代の目で見ても圧巻。それは本当に凄いことです」
土浦亀城邸一般公開
東京都港区南青山2-5- 17。2024年9月2日から予約開始。毎月2回(水曜・土曜のいずれか) の開催で、1日に2~3回のガイドツアーを実施。観覧料1,500円。
photo_Masanori Kaneshita text_Tami Okano