角田裕毅が「現実的に不可能」な1ストップ作戦で9位 現実を可能にしたチームスタッフとの強い絆
【4強チーム8台に次ぐ中団の最高位】 こうしてRBのメカニックたちとエンジニアたちは、予選を走ったのとまったく同じマシンをもう1台、仕立て上げた。そしてピットレーンスタートになることもなく、角田のマシンを10番グリッドへと送り出したのだ。 もちろん角田も、その苦労と思いは痛いほどよくわかっていた。 夜遅くまで続いた作業を見守っていたホンダの折原伸太郎トラックサイドゼネラルマネージャーはこう振り返る。 「クラッシュしたマシンをみんな苦労して直しながら、『ポイントを獲ってほしいな』という話をしていたんです。それを裕毅が有言実行でやってくれたんで、みんなの努力が報われてよかったなと思いました。ゴールした瞬間も無線でかなり叫んでいましたし、それを聞いてこっちも感極まるものがありました。昨日からの流れを考えると、すごくいい仕事をしてくれたと思います」 シーズン前半戦を中団グループ最上位で折り返すためにも、RBが得意とするこのハンガロリンクでは、是が非でもポイントが必要だった。 レース前に語っていたとおり、角田とRBは最大のライバルであるハースの前でフィニッシュしただけでなく、アストンマーティンの2台も抑えきって、4強チーム8台に次ぐ9位をものにした。 「今週末はコンストラクターズランキングを争っているライバルたちよりも前でフィニッシュすることがとても重要でしたし、特にハースは来週のスパ(ベルギーGP)でかなり速いと思っているので、ここで少しポイントを獲っておけたのはよかったと思います。今はポイントが獲れるレースでしっかり獲ることが重要です」 クラッシュで痛めた臀部の痛みも口にせず、自分の仕事をやりきってチームスタッフたちの努力に応えた角田裕毅は、そう言ってドライバーの帰りを待つチームの輪のなかに戻っていった。
米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki