初めて明かすW杯予選敗退の真実。フットサル元日本代表監督・木暮賢一郎、栄光と挫折の969日【独占インタビュー】
1点を守る選択肢を準備していなかった
──大会初戦、結果的に敗れたキルギス戦は先制を許しました。 優勝した2022年の前回大会も初戦は敗れていましたし、当然「初戦の入りは大事だ」だと全員が認識していました。特に先制された「チョン・ドン」は、2016年大会のプレーオフでキルギスにやられた時と同じような形でしたし、映像でも選手に共有していました。前日にもシミュレーションして、セットプレーを含めて時間をかけて対策していたことは事実です。 また、これまでフリーキックの壁に入っていたアルトゥールと和也がいないことで、代わりの選手の役割は確認していたものの、試合中にいつもと違う配置、人であることによる混乱があったと思います。 ですが、キルギス戦に関してはそもそも何が起きているのだろうかという感覚も少なからずありました。 この試合だけではなく、ポルトガル遠征以降の2、3カ月で、代表活動以外の部分で誰も予想することが難しい課題が次々と起きていました。私自身、日本代表には選手や指導者として18年間携わってきましたが、これほどの想定外が重なったという経験は正直初めてのことでした。 ──第2戦の韓国戦からは“3セット回し”にしました。 アジアカップであると同時に、W杯予選ですから、2つの視点がありました。 2022年大会と同じように、初戦で敗戦してもそれ以降すべての試合に勝利すれば優勝できます。それが最高の結果だと思います。ただし、2016年大会の例があるように、監督としては優勝を目指しながらも、5位決定戦に回ることもリスクヘッジとして考えないといけません。心理的にもタフな道になることを考慮して準備する必要がありました。 第1戦に敗れ、例えば第2戦から慌てて主力の5人だけを使う戦い方を選んだ場合、それでは最後まで戦えないというのが、自分が出した答えです。選手は疲弊しますし、コンディションやチームの一体感をつくることを含めて、3セットを選択しました。新しく合流した選手もいたので、一番いいバランスを探りながら力を発揮する意味でもそれがいいだろうな、と。 ──しかし、タジキスタン戦はまさかの引き分け。何が起きていたのか。 グループステージの中で一番注意すべき存在がタジキスタンだと考えていました。 タジキスタンは前回大会もベスト8ですし、ここ数年を見たなかでは、GK攻撃やカウンターの早さ、テクニックのある選手もいますから、警戒していました。 1-0で折り返したところまではうまくいっていましたし、第2ピリオドに入って、27分に失点した時も、慌てるよりは冷静にという気持ちでした。ただし、相手はそのまま引き分けでもノックアウトステージにいける状況でしたから、体を張って何がなんでも守り切るという気持ちが前面に出ていました。我々はそれをこじ開けないといけなかったのですが、シュートが3本くらいバーに当たりながらも、最後まで得点を奪えませんでした。 試合に入る時には、ありとあらゆるシミュレーションをしたと思っていました。ですが、改めて指導者として何ができたかを振り返ると、1点リードしている時に、より時間を稼ぐための準備をしていたかと言われると、それはしていなかった。 例えば先制したタイミングでパワープレーをするなど、なりふり構わずにゲームを優位に進めるやり方を用意しておくべきだったかもしれません。指導者として振り返りをすれば、自分の決断一つで結果を変えることができたかもしれないと、今でも感じてしまうことではあります。
【関連記事】
- 【日本代表|会見全文】連覇、そしてW杯出場へ。「約2年3カ月の集大成を」木暮賢一郎監督が語るメンバー選考理由とアジアカップへの思い。
- 日本代表・木暮賢一郎監督が退任 連覇を狙ったアジアカップで史上初のGS敗退&W杯出場権を逃す「フットサルに関わる全ての方々が、真に手を取り合って力強く前に進んでいくことを心より願っています」
- 【アジアカップ2024|ミックス/日本vsタジキスタン】日本代表、史上初のグループリーグ敗退に木暮賢一郎監督も意気消沈「人間的にも素晴らしい17名が集まったからこそ、勝たせてあげたかった」
- 【アジアカップ2024|ミックス/日本vsキルギス】想定外続きでの黒星発進も、ブレない姿勢を貫く木暮賢一郎監督「なにが起きても“次がある”と信じて進むだけ」
- 【アジアカップ2024|ミックス/日本vs韓国】奥の手“3セット回し”で起死回生を図った木暮賢一郎監督「ここからはすべてのゲームが決勝戦」