初めて明かすW杯予選敗退の真実。フットサル元日本代表監督・木暮賢一郎、栄光と挫折の969日【独占インタビュー】
追加招集で仁部屋と安藤を選んだ決断
──順調に見えた活動も、予算を踏まえたスケジューリングや、大会の変更や中止、海外クラブとの交渉など、さまざまな事態に直面していたわけですね。木暮さんにとって、想定外の中での、あらゆる決断をしてきた。でもさらに、大会直前にオリベイラ・アルトゥール、清水和也、フィウーザが立て続けに負傷。この出来事をどう受け止めましたか? 3人ともこちらの管理で全てをコントロールし、未然に防ぐことのできるタイプの怪我ではなかったので、動揺はありました。直前の怪我人でしたし、アジアカップの戦いが難しくなったことは間違いありません。 サポートメンバーにGKピレス・イゴールがいましたが、アルトゥールと和也の代わりはすぐに決めないといけない。決断が1日遅れたら到着が1日遅れるくらい、本当にギリギリの状況でした。監督としては、“秒速”で差し替えの選手を決断する必要がありました。 海外組は怪我やチームの許可が出なかったために呼ぶことができず、限られた時間で「このタイミングで誰が必要なのか」を考えることは、予想以上に難しい決断でした。 ──そして、仁部屋和弘と安藤良平という2人のベテランを招集しました。 追加招集は、監督の決断がすべてだと思います。ここまでいろいろなシミュレーションをして、いろんな選手を試してきた上で決めたことなので、まったく悔いはありません。 例えば安藤は、私が監督に就任してから代表活動に一度も呼んでいませんでしたが、ラージリストにはずっと入っていました。アルトゥールに何かあった時の代わりになり得るのは、安藤と、この時は怪我をしていた内村俊太だと考えていました。緊急事態でも、ベテランとしてなんとかしてくれるという期待ですね。安藤はアジアの戦いもよく知っていますし、名古屋でプレーしていることから、名古屋の選手が多い既存の代表のセットに対してフィットしやすいと考えました。 通常時であれば同じような実力であれば若い選手を呼んできましたし、メディアにも明言していました。ただ緊急事態でしたし、内村も怪我をしていたので、性格を含めて知っていて信頼ができる安藤を選びました。もちろん他の選手もギリギリまで悩みましたが、非常にデリケートな状況だったので、すぐにフィットできる選手をと熟考した結果です。 ──秒速のなかで熟考した。 そうですね。仁部屋もリーグ戦ですごく活躍していて、直前のポルトガル遠征でもメンバーに入れていました。あとは、2016年のアジアカップでW杯出場を逃した経験という、彼自身のキャリアでの悔しさをプラスのエネルギーにしてくれるのではないかと考えました。チームが苦しい状況のなかで参加しますから、その雰囲気を変えるために、仁部屋はストーリーや思いをもってチームのために戦ってくれるだろうと思い、決断しました。 タケ(本石猛裕)と(伊藤)圭汰ら若い選手たちが実力的に劣っていたかというと、決してそうではありません。この決断は、あくまで私自身の感覚です。今まで、自分が選手だった時代にも、多くの途中参加の選手を見てきましたが、必ずしも差し替えがうまくいくわけではありません。途中から合流してチームにいい影響をもたらしてくれる場合もあれば、遅れて参加する難しさも見てきました。パフォーマンスに限らず、メンタルやチームにどう馴染むかといったこともそうですね。 もし、「若い選手を呼んで、エネルギッシュさで乗り越えられたのではないか」と言われたら、そうなっていた可能性はもちろんあります。ただし、あのギリギリの局面のなかで、自分は若さではなく、ベテランの経験値を優先して決断したということです。
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