初めて明かすW杯予選敗退の真実。フットサル元日本代表監督・木暮賢一郎、栄光と挫折の969日【独占インタビュー】
負けから学ぶために必要な存在でありたい
──大会後から退任発表までの3カ月は何をされていたのでしょうか? 退任については、物事の結果が出るまでは、振り返りもなければ、フットサルの未来に向けての議論をする場もなく、自分はただただ意思決定を待っている状況でした。 また、オフィシャルの結果が出るまでは他のチームを探すことはしないと決めていました。プロの監督としては甘いかもしれませんが、任期中に他国へ心が動くことは私の日本代表に対する思いに反すると思っていました。 次に向かうタイミングを逃し、再出発に時間がかかる状況になることは想像できましたが、ただ待つ日々を過ごしていました。人間、何も状況がわからないまま待つことは苦しいものだと思いますが……僕も、非常に苦しかったです。 スポーツ選手でも、芸能人でも、会社の経営者でも、「いい時はみんなが称賛してくれて、失敗したら離れていく」という話はありますけど、そういった辛さはありました。 ──木暮さんは、育成年代からトップカテゴリーまで、男女を問わずあらゆる指導者に門を開いていましたし、指導内容やメソッドをオープンに共有されていました。代表チームとは、選手を育成した指導者や、日々Fリーグで指導する監督がいて初めて成り立つものだと話していましたし、そのリスペクトがありました。それでも、離れてしまう人はいる。 これまで、選手時代に批判を受けてきたことは何度もありましたし、負けたことで否定的な意見を言う人がいるのも当たり前のことだと思っています。そうした意味で、メディアの発信や、SNSのリアクションなどは気にならないですが、今まで近くにいた方たちが、負けたからということだけで「木暮はダメだ」と、必要以上に周囲に言っていることを耳にしたり、自分が困っている時にだけ知識だけを取りに来た人もいたりと、ふさぎ込んでしまった時期もあります。 私は、指導者養成やリフレッシュ研修会などでは本当に多くの方たちに、自分の経験や情報をシェアしてきたつもりですので、そうした周囲の変化には正直に、少しの悲しさがありました。 ──退任発表から5カ月、今はどんな日々ですか? 私も人間ですから、落ち込んでいた時期はあります。自分が思っている以上にふさぎ込んでいたな、と。そうした時に、助けてくれる仲間もたくさんいました。ネガティブなこともありましたけど、心配して、支えてくれる人たちのありがたさを感じました。 今はあの経験を乗り越えようという、ポジティブな気持ちがあります。 最近はいろんな現場に行って指導すると、そこで感じられる喜びがあります。久しぶりに自分がプレーを楽しむ機会では、改めてボールを蹴る喜びも感じています。 この期間に手を差し伸べてくれた全ての方たちには感謝してもしきれないですし、自分なりのやり方で恩返ししていきたいなと思っています。 こうしたエネルギーは、次に自分が監督として現場に戻った時に、以前の自分よりも広い視野で物事を見ることにつながるのではないかと思っています。今のこの経験は、言い方は難しいですけど、負けた経験があったからこそ得られるものです。 こうして、自分の今の思いを伝えることが、誰かの考えるきっかけになったらいいなとも思います。今のままでは、アジアカップで負けたことが、何事もなかったかのように忘れられてしまうかもしれない。本来、敗戦も財産であるはずです。 ──あの敗戦を、きちんと検証することも必要。 まさに今日、聞いてもらった「追加招集選手の意図は?」「なぜ最後の試合で時間を有効に使うためにパワープレーを使わなかったのか?」「どんな準備、練習をしていたのか?」といった話は大事だと思います。日本フットサルがもっと強くなるためという視点での議論があるべきです。 自分は、あの負けから学ぶために必要な存在でありたいですし、どんな形であっても、日本のフットサル界に貢献したいという思いは、変わらずにもっています。 ──いつとは言わないまでも、もう一度、日本代表監督を務めたいという思いも? 夢や目標は、簡単に叶えられるわけではありません。日本代表監督の枠は一つしかないですし、自分がなりたいと思ってなれるものではありません。ただ、日本代表として、良い時も悪い時も経験してきて、代表チームへの思いは誰よりも強いと自負しています。 なので、どんな場所からでもまずは現場に戻り、自分が思ういい仕事をしていきたいです。 ──監督として、再スタートを切る。 今はまだ所属チームはありません。当然、戻りたいという情熱や、フットサルへの情熱が失われたわけではありません。代表チームをW杯へ導けなかったことはネガティブですが、それをいつまでも言っていても、先には進めません。 フットサル界に貢献したい気持ちは変わらずに強くもっていますから、表に出ることから逃げたくはないですし、逃げないといけないことではないと思っています。 ──2024年は、日本にとっても、木暮さんにとっても試練の1年でした。 本当に、2024年は、自分のフットサル人生のなかでダントツに苦しい年で、いろんなものを失い、考えさせられました。そこで手にしたものをひっさげて、パワーアップしたいと思います。自分を育ててもらった日本フットサル界がより良くなるために、やれることはたくさんあります。これからも変わらずに、一つずつ取り組んでいきたいと思います。 代表チームとして関わった全ての選手たちとメディカルスタッフ、総務のみなさんのさらなる飛躍を心から願っています。 そして私の想いを全て知っている(高橋)健介(現日本代表監督)、うっちー(内山慶太郎GKコーチ)の2人が中心となり、必ず日本フットサル界を次のステージへ導いてくれると信じています。
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